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25/06/03()22:30:39No.1319643993

 近頃カルデアが騒がしい。

 いつも通りといえばいつも通りなのだが、どうやらあまりよくない文明のようだ。ストーム・ボーダー内の空気はどろどろとしていて、どこか胸焼けするように甘ったるいように感じる。

 原因は一応知っている。ハベトロットという英霊(関係ないがハベにゃんという愛称はいい文明だと思う)が作った新しい礼装。なんでも花嫁に向けたものであり、効果も限られた女性のみに向けられたものということで大わらわになっている、らしい。

 限られた女性はその妄想をむくむくと膨らませ、そうでない女性は逆に既成事実を作ろうと獣になりかけている。こうして書くといつも通りな気もするが、どちらも具体的なアクションは起こしていないというのは、それなりにカルデアに長くいる身としてはかなり珍しい、と思う。戦の前の雰囲気が近いだろうか。お互いに牽制にとどめあっているのだ(生前問答無用でフォトンレイしていた私にはあまり牽制とか関係ないのだが)。

 

 

 

25/06/03()22:31:45No.1319644394

 こちらも原因は知っている。このつい先日まで発生していた特異点。ホストクラブ?とかえーえすえむあーる?というのがカルデアにまで蔓延り、皆を精神的に破壊していったのだ。最終的には解決したが、深い傷跡が首脳部にまで残っているという。これまた悪い文明のようだ。

 言ってしまえばカルデアは大きな戦のあとにまた戦が生まれてしまった状態なのだ。みな戦いたくても戦えない、いや違うか。戦いたくないのに戦いたいという状態に陥ってる…ように私には見えた。

 外から見ているような言い方だが、これは私が先の特異点に全く関与していなかったからだ。正直に言えばあれは私にはどうでもいい文明だった。なので普段通り食堂でご飯を食べたり、シミュレータでツェルコを乗り回していたのである。食堂で叫ぶ魔猪の言葉は半分以上よくわからなかったが悪い文明だというのは分かったのでついフォトンレイしたこともあった。

 

 

 

25/06/03()22:33:19No.1319644985

 話を戻して。ホストやら結婚やらは戦士としての私にはあまり関係のないことだ。なのでまたシリアスな文明が戻ってくるまでの間、ツェルコを乗り回して暇をつぶそうとしていた。のだが、

「えぇー、ほんとうにござるかー?」

たまたま相席した子供たちにその話をすると、おかしな返事をされたのだ。

「…なんだ、その反応は?確かアサシンの…なんとか仮面の真似か?」

「そうだけどそうじゃなくてー。ほんとうにおかあさん、じゃなかったお嫁さんに興味ないのー?」

「…私にとって結婚は政治の一つに過ぎなかった。特段思い入れは――」

「そんなヴェールつけているのに?」

「うん?…ああ、もしかしてこれか?」

 一瞬何のことかと思ったが、自分の髪飾りを思い出す。私の後頭部には膝まで届くヴェールがついており、初めて会うものはよくこれを私の髪だと勘違いするのだが…もしや、これが花嫁に見えるというのか?

「うん!そんなに長いの、お嫁さん以外に着けないもの!」

「これは生前からつけていたもので、せいぜい王としての威厳をつける程度のものなのだが…」

 

 

 

25/06/03()22:34:32No.1319645446

「あら、いいじゃない。とっても素敵だわ」

 ジャックの思い違いを正そうとしたのだが、横で聞いていたナーサリーライムが入ってきた。

「たとえ元が大人の道具だったとしても、そこに女の子の夢が生まれるのは不思議じゃないわ」

「そういうものなのか?」

「そうじゃなくても、その方が素敵だもの!泥棒だってお姫様を救うことができるのよ。王様がお嫁さんになってもいいじゃない!そんな素敵な物語があったら、みんな虜になっちゃうわ!」

「そういうものなのか…?」

 泥棒だから王様だからというのは関係ない気がするし、そもそも武力でしかなかった私は王様というのも微妙に違う気もする。

 

 

 

25/06/03()22:35:10No.1319645661

するのだが、

「虜、か…」

一般的に結婚とは男が女を娶るもの、つまりは生涯を共にする虜にすることである。昨今はリテラシー?だか何だかでこういう言い方は悪い文明になるらしいが少なくとも私の時代ではそうだったといえる。

しかし今は草原をかけた時代よりもはるか未来で、そもそも私は女である。となると、私が娶られる、つまりは虜になることもあるのではないだろうか。

そうなった自分を想像する。相手は…あまり思いつかないが、マスターとか最近来た先輩とやらみたいな人間になるのだろうか?

「………………」

「アルテラ?どうしたのかしら?」

「………………なんでもない、なんでもない、ぞ」

 それは、なんだか、胸がむずむずするような、甘い夢に見えた。

 今のカルデア包み込む乾きかけた蜂蜜のようなそれではない。草原の夜空の下で飲む焚火で温めた羊の乳のような甘さだ。懐かしく、安らぎを与えるようなそれに包まれているような不思議な感覚だ。

 

 

 

25/06/03()22:36:25No.1319646154

「………そろそろ帰る」

 逃げるように完食した鯖みそ定食を返す。召喚された当初は馴染みのないものだったが、今では箸で解して魚を食べることに抵抗もなくなった。その当時から作り続けていた厨房の弓兵はもう夕食の支度をしているらしい。

そういえばマスターがいつか言っていた。あのアーチャーの料理はお袋の味というものがするらしい。言われた本人はせめてバトラーと言いたまえと怒っていたか。

お袋。母親。つまりはお嫁さん。

……だめだ。妙に意識がそちらに向かう。シュメル熱とも違う妙な体温の上昇がもどかしい。早駆けするような気分ではなくなった。これからどうするか。

「落ち着かないなら、いっそ飛び込んでみるのも悪くないと思うがね」

 返却口で固まっていると、弓兵がたまった食器を回収しに来たようだ。そのついでに話しかけられたようだ。

 

 

 

25/06/03()22:36:53No.1319646333

「私には縁のなかった話だが、人間というのは良くも悪くも浮ついた話には飛びつきたいようにできているものだ。それを我慢するのは美徳ではあろうが、当然毒にもなる」

「だが私にはそのような相手は…いやいるにはいるが実感がないぞ」

「自分でやるだけが楽しみではない。そうなったものの話を聞くというのも楽しみ方の一つさ。世間一般では出歯亀、というものだがね」

「…そういうものなのか?」

「そういうものだからナーサリーライムも君に言ったのさ。ほら行きたまえ。今晩はそれなりに手のかかる献立でね。話し相手をしている時間はもうないぞ」

 そういって再び夕食らしいものに取り掛かる。これは背中を押された…のだろうか?

「……よし、行くか」

 そう言って私は食堂を後にした。目的地はシミュレーターではなく女性サーヴァントがそれなりにたむろする場所。

 私には女としての喜びというのはよくわからないものだ。だがそれを知る者も多く招かれるのがカルデアだ。

 

 …本当に悪い文明かどうか、この目で確かめるのも悪くないだろう。

 

 

 

25/06/03()22:38:11No.1319646842

「意外だったな。少女が所帯をもつなんざ、お前にとってはまさに人生の墓場だろうに」

「やっぱり意地悪な言い方をするのね。でも、素敵な王子様と幸せに過ごすなんて、最高の結末でしょう?たとえわたしが零れ落ちても、めでたしであるのは変わらないわ」

「フン。童貞独身には縁のない話だ。ところでウェイター。縁のなかった頭文字D同士のよしみだ。徹夜に効くコーヒーを淹れてくれ!」

「つい一時間前に渡しただろう。あと少年少女の情操教育に悪い言い方はやめたまえ」

「おっと失礼。独身しか同じところはなかったな!俺はDD、お前はDか!」

「少年少女の情操教育に悪い言い方はやめたまえ!!」

 

 

 

25/06/03()22:42:47No.1319648557

おかしい、花嫁とかジューンブライドってもうちょっと夢にあふれたもののはず…と思いながら書きました

アルテラさんってサンタ以外で何で出てたっけって思い出しながら書いたらなんか長くなった

しかも続きがある感じで書いたけど書ききれるかはわかりません

すまない、本当にすまない

 

 

 

25/06/03()22:44:35No.1319649288

久しぶりにアルテラさんの怪文書読めて楽しかったよ!

 

 

 

25/06/03()23:04:51No.1319656924

>食堂で叫ぶ魔猪の言葉は半分以上よくわからなかったが悪い文明だというのは分かったのでついフォトンレイしたこともあった。

ついでフォトンレイされてる…まあいいか

 

 

 

25/06/03()23:12:02No.1319659495

いいよねアルテラさん

エクステラ系列もっと見たかった

 

 

 

25/06/03()23:50:47No.1319672508

アルテラさんいいよね

テラでの美しい笑顔が好きだったからFGOでも幸せにしたい