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25/05/20()23:50:43No.1314831940

「いらっしゃ……おや、マスターじゃないか」

 

からん、とドアベルが鳴り其方へと目線を向けると、そこには我らのマスターが居た。

この特異点においては、夜の商売をする、というかなりイレギュラーな解法を以て解決すべし、と挑んでいる、愚かしくも実直なマスターだ。

 

「何処で此処の話を聞いてきたのかネ? ん? ああ……そりゃまあカルデアにはバレているだろうサ! それはそれとして、そろそろ寝る時間じゃないのかネ?」

 

カルデア、そしてノウムカルデア、更にはシャドウボーダーでこっそり拵えて、ミッションで色々な資材をこっそりちょろまかして造り上げたバーを模した店には、マスターとワタシの二人だけ。なんせ普段から閑古鳥が鳴いている店だから。

 

これが若い身空なら、ちょっとは何か物語が動くのかもしれないが、何せ私はアラフィフだからネ!

 

 

 

 

25/05/20()23:52:01No.1314832317

この店でもいつも通り、グラスを磨きながらマスターへと声を掛け、席を勧める。マスターは、いつもと変わらぬ様子で、椅子に腰を下ろし此方へと微笑みを向けた。

退勤して、借りているアパートへ戻って寝る、という所でカルデアから此処にワタシが居るらしいと知らされ、何か悪巧みをしていないか見てきてほしい、と言われたそうだ。

ワタシがいうのも何だが、人使いが荒すぎないかナァ?

いくらワタシが悪人だからって、ネェ?

 

「成る程。……ワタシかね? そりゃこうしてただのバーテンを……」

 

そこまで言って、マスターの出題の真意に気づく。

なにせこの店は、特異点の中でも大分外れた場所、またの名を「二丁目」と呼ばれる場所に備えた、本当にこじんまりしたものだからだ。

 

 

 

25/05/20()23:53:50No.1314832916

「……フウ、やれやれ。マスター、君、仮にも店の看板を預かるのだから、少しは店の経営というものについて知っておくといい」

 

「考えてみたまえ、君の店がある"一番街"や、らぶらぶはぁとヨハンナ様大石像のお膝元にある"岸掘"、それに高級店の建ち並ぶ"シルバーストリート"……ああいった場所に店を出すには、それなりに仁義というものを通す必要がある。つまりは、だ。悪い連中にそれなりに良い顔して、金を流して、奴らの顔を伺ってなきゃいけない。それ以外にも金がかなり掛かる。小さな店を拵えるなら、こういう場所の方がいいのだヨ……と、言っても、納得はしないのだろうネ」

 

「この町は、君の知識にもあるとおり、マイノリティを持つ者が集まるのサ。だからこそ、表に出ないような裏の話から、キャスト達の愚痴まで何でも集まる。

いいかネ? 情報に勝る価値はない、ということサ。……だからワタシは、こうしてここで、色々な情報を集めている、というだけのことだヨ。もちろん、特異点解決(とワタシの懐)の為にネ!」

 

……ここまで言えば、マスターも納得してくれるだろう。多少疑われるのはまあいつものこと。悪人とは、疑われてこそというものだ。

 

 

 

25/05/20()23:54:51No.1314833238

「ところでマスター、せっかく来たのだから一杯飲んでいくといい。無論、ノンアルコールだが」

 

ノンアルコール、というとマスターは少し残念な顔を見せた。気持ちは分かるが、マスターはまだ"子供"なのだ。ワタシからしたらね?

手慣れた手つきで、ワタシは氷を四角に切り、タンブラーグラスに。そして軽くマドラーで一回ししたら、ノンアルコールのジンを注ぎ、もう一度混ぜる。

上から切ったライムの汁を落とし、ジンと同量のトニックウォーターをグラスの縁からゆっくりと注ぎ入れる。

 

──ここまでなら、ただのジン・トニック。

だが、ここからがワタシのアレンジ。

 

スプーン一杯程度のブルーキュラソーシロップを加え、炭酸が抜けきらないようにそっと回す。そして、赤身の強いオレンジの櫛を飾り付ける。

ジン・トニックは少しばかり甘味が薄く、目を覚ますには丁度良いがマスターの口にはいささかカラいし見栄えがシンプルだ。

そこでこのちょっとした遊び心……というわけだネ。

 

 

 

25/05/20()23:55:39No.1314833499

「さあ、どうぞ。口に合えば良いのだが」

 

差し出されたグラスに、マスターはそっと唇をつける。

──こくん、と喉を鳴らし、グラスの液体を流しこんで。

……どうやら、その表情を見るにワタシの"狙い"は当っていたようだ。

 

「フフ……口にあったようで何よりだ。ところでマスター、この特異点の攻略は順調かね?」

 

1/3ほど減ったグラスをカウンターへ置いたマスターは、ふるふると首を横に振った。

それもそうだろう、現状一向に解決の兆しが見えていないのだから。

 

「それはそうだろうネ、ここの聖杯とやらは随分と厄介な性質を持っているようだ。……だから、ひとつお疲れの所悪いが、ワタシからマスターへ講義をしようじゃないか」

 

かつて大学、そして私設教授として教鞭を振るっていた頃のようにビシッ、とキメる。

いささか、腰に辛い。だが、この講義は、今のマスターには必要なものだ。

 

 

 

25/05/20()23:56:10No.1314833693

「欲望というのはネ、形なく、また際限もない。故に膨大であり、また人の歩みを推し進めてきたものだ……。だが、欲望とは多くの場合、パターン付けすることが出来る」

 

「眠い、食べたい、愛したい、愛されたい、気に入らない……そう、数多くの動的な意志に基づくのだよ。故に、欲望を扱おうとするならば、欲望をよく制御しなければならない。数多くの欲望を操り、薪をくべ、火をつけてきたワタシが言うのだからね」

 

そう。犯罪者とは欲望の体現者だ。

そして、あらゆる犯罪の中で、その中央に座し、犯罪者たちを操ってきた「コンサルタント犯罪者」であるワタシもまた、欲望を体現する者だ。

マスターはピンとこないだろうけども、悪とは即ち道理や摂理を越えてなお、己の欲望を成し遂げんとした者なのだから。

ちびちびとグラスを傾けるマスターに目線を向けながら、ワタシは笑みを造る。

 

 

 

25/05/20()23:57:57No.1314834288

「考えてみたまえ、ワタシだって"欲望"に負けたのだ。あのスケコマシのコトなど気にせず、外国へ逃れてそこでコンサルタント犯罪をしていれば良かった。だが、アイツに勝ちたいという欲望を御しきれなかった。その結末が……君も知るあの『ライヘンバッハ』というわけだ」

 

「──だから努々気をつけたまえ。欲望を扱うのならば、自らが欲望の渦に取り込まれないように」

 

その時、グラスはからん、とマスターの手から滑り落ちた。

我らがマスターは強烈な睡魔に襲われ、そして、ワタシの狙い通りに……夢の世界へと旅立っていく。

 

「……おっと、随分と引き留めてしまったようだ。そのままお休み。……良い夢を、マイマスター」

 

 

 

25/05/20()23:59:21No.1314834728

・・・

・・

 

――――プルルルルルル、ガチャ。

 

……ん、ああ、君かネ。ああ、……思っていた通りだったヨ。君が心配していた通りだ。

マスターは既に帰したヨ。同居者に連絡したらすぐに迎えに来てくれた。実に良い……いや、いささか過剰な同居者だと思うがネ?

 

……ああ。マスターは確かに『侵食』されつつあったヨ。

今、この町に出回っている違法薬物Heaven's Gate……またの名を『M』。

元がサーヴァント向けの薬物であったこと、そしてマスターの毒耐性の強さが功を奏した、としか言えないだろう。

 

悲しいコトに、薬と毒は表裏一体だ。致死的な、痛烈な毒は例え効かずとも、薬であるならばじわじわと侵食されてしまう。

故に、今日マスターが訪れてくれたのは僥倖……いや、これもワタシの数式が導いた結論通りだ。完全な解毒とは行かないが、薬物の代謝促進と、一定の耐性をつける為の薬品を飲ませておいた。副作用として、強烈な睡魔に見舞われた我らのマスターは、ここ数時間の記憶はきれいさっぱり消えてしまうだろうがネ。

 

 

 

25/05/21()00:00:27No.1314835134

……いいや、サーヴァント達ではないだろう。犯人はマスターの空き時間を狙って予約を入れているこの特異点の一般人だ。

無論、特定しているとも。流通経路、市場規模、末端価格……その全ての変数はワタシの手の中にある。

無論、制裁についても、既に。直に彼の前には現れなくなる。……いや、居なくなる。といった方が正しいかナ?

……そう、戦とは「戦が始まるまでに行った全ての数式から導かれる解答」なのだからネ。

これは、君の言葉だったかな?

 

……ハハハハ、流通自体は止めるつもりはない。とはいえ、サーヴァントへの供給については、いささか絞らせてもらうがネ?

別に、こんな小さな儲け口などどうでもいいんだが、実に厄介なことに、この薬物自体もまた、この地の聖杯の魔力を通してしまっている。流れを止める事は、特異点の変容に繋がりかねないのでネ。本当だヨ?

 

……この特異点は、欲望が肥大化すればするほど、その影響力を増す性質がある。そこに付け入る隙があるのなら、世界最高のコンサルタント犯罪者としては、見逃す手はない。なぁに、マスターには知られぬよう、細やかに……静かにネ。ワタシなりの解決策を見いだして見るつもりサ。

 

 

 

25/05/21()00:01:10No.1314835384

それでは、また……――魔王殿。

 

ああそうそう、今回の計画に協力してくれた……もう一組の我らの『共犯者』にも宜しく言っておいてくれたまえ。

 

どうやら彼、ワタシのこと嫌いみたいだからネ!

 

 

 

25/05/21()00:02:16No.1314835741

同時間帯で特異点解決しようと動く鯖出てくるこのライブ感良いよね

 

 

 

25/05/21()00:02:20No.1314835758

ばらきーといいアラフィフといい混沌悪は真面目だな…

 

 

 

25/05/21()00:02:38No.1314835863

ジン・トニックのカクテル言葉

『強い意志』

『いつも希望を捨てない貴方へ』

 

 

 

25/05/21()00:05:07No.1314836690

余談ですが

らぶらぶはぁとヨハンナ様大石像オルタビルがあると仮定した『岸堀』とは「」向けの地名で言うと錦糸町になります

錦糸町から見えるからね…らぶらぶはぁとヨハンナ様大スカイツリー像

 

 

 

25/05/21()00:08:22No.1314837876

あえてマスターの性別に言及してないのはホスト時空でもホステス時空でも通じるからか

 

 

 

25/05/21()00:16:57No.1314840766

>あえてマスターの性別に言及してないのはホスト時空でもホステス時空でも通じるからか

こういうとこ好き

 

 

 

25/05/21()00:27:06No.1314844280

魔王様は魔王ノッブで共犯者は…モンか