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23/08/08()20:00:16No.1087959781

 投稿日 8/8

【場面 オークニーの城のオークニーのオークニーのオークニーでオークニーのお祭りお祀りお祭りの日】

◆先程まで昼だったというのに、時間が急速に進み太陽が落ちて昇り、世界は強引にお祭りの日となった。

 城の外から女王を讃える歌が聞こえる……。

 

命あるものはお帰りを。

ここは底なる女王のお庭。

望みはずっと欠けたまま。

僕らはみんな死んだのさ。

だからここらにやってくる。

石の女王がやってくる。

塞げ塞げ、石のように玉のように。

僕らの嘆きを瓦礫に敷いて、死者の王の道を作れ。

 

現れたるは冷たい女王、血染めの冠、被った王さ。

 

 

 

23/08/08()20:00:42No.1087959963

◆大通りに妖精と人間、いや死者があふれだしている。

 皆、傷だらけの体を引きずって、うねうねと動いている。

 その混みようがひどくて前に進めない。

 

「マスター! こちらです!」

 

◆上を見れば、トリスタンが跳躍し、自分を抱き抱えて屋根に移動してくれた。

 

「事態の全てを把握なされたようですね。

 ええ、この国は冥界です、間も無く現世との往来は難しくなるでしょう。

 他のサーヴァントとは合流できました、後は貴方が脱出するだけです」

「トリスタン……ごめん、帰れなくなった!」

 

 

 

23/08/08()20:01:08No.1087960112

◆そのまま駆け出そうとしたが、優しく止められてしまう。

 

「自分は、本当のカルデアのマスターでないことを知った」

「確かに貴方は我らがマスターの一部、感情の現れです。

 されど欠片だからとて、ここに残してはおけません」

「……それと同じなんだ。

 あのトネリコはトネリコの一部、そのものじゃない」

「……」

「だからこそ! 俺/私はあの子を助けたい!

 永遠にひとりぼっちで蓋になることが、正しいなんて思えない!」

「おおマスター、私は……嬉しい。

 やはり貴方は心優しい人間なのだと分かりましたから」

「トリスタン……」

「共に参ります。

 窮地に陥った子女を助けに行くなど、騎士道冥利に尽きますからね」

 

 

 

23/08/08()20:01:30No.1087960260

◆トリスタンが自分を抱え、屋根づたいに移動していく。

 祭りの熱気は増していく。

 

「トネリコ殿はどちらへ?」

「町の外だ! あの……瓦礫の道の先にいる!」

「マスター、ここからは走りましょう。

 おお……私はがたつく!

 なんと安定感に欠ける道……羽が欲しいところです」

「羽は無くともヒヒン、足はここにありますよ」

「!」

「なんの因果か底に落ち、猫と縁側でニンジンを味わっていたレッドラ・ビットです。

 妖精国随一のスピードスターの足並み、今なら初乗り料金……」

「乗せてください!」

 

 

 

23/08/08()20:02:48No.1087960747

◆走り出す、瓦礫を越えて。

 走って走ってその先に……大きな岩屋が見えた。

 

「到着です、料金はハッピーエンドでお願いしますよ」

「ありがとう!」

「マスター、岩屋の奥から色濃い死の気配を感じます。

 まるで私が死の間際に見たような……」

 

「トリスタン、この記憶入り水晶をカルデアの俺/私に届けて」

「……本当に、冥界に残られるのですね」

「うん、だって俺/私というアルターエゴはこの国で産まれたんだから。

 ……あの子と同じように」

「では、この貴方とは永久の別れになると」

「……うん、でも大丈夫。

 みんなとの思い出がある、寂しくないよ」

 

 

 

23/08/08()20:03:09No.1087960869

「そんな風に微笑んでいられるのなら、過剰に心配する必要もないのでしょう。

 ならば私がやるべきは貴方の背を押すこと。

 ……トネリコ殿を助けに、行ってらっしゃい」

「行ってきます、トリスタン、みんな!」

 

「ああ、白い帆船が遠ざかっていく……。

 カルデアに戻った時、私はひどく叱られそうですね」

 

 

 

23/08/08()20:03:42No.1087961103

◆丘にある岩屋は固く閉ざされていた。

 指をかけ、力を込めて開けていく。

 中にいる彼女の存在、この世界の秘密を暴くかのように。

 

「来たよ、君の元に」

記憶喪失君、どうして……。

貴方には、帰る場所も待つ人もいるのに……。

 

◆トネリコがとても綺麗な服を着て横たわっている。

 頭には真っ赤に染まった冠が。

 肌に血の気はなく、体は腐り出し骨が見えていた。

 有機物から無機物、『石の女王』に変じる途中。

 

 

 

23/08/08()20:04:08No.1087961245

その顔、全部知った癖にここに来たんだ。

訳分かんない、理解不能です。

……私は貴方の大切なものを壊した。

記憶を取り出した、望遠鏡を砕いた。

体を傷つけようとした、瞳だって奪おうと……。

 

もう分かったでしょう? 私の心の奥には悪意があるんです。

……他の妖精や人間よりも大きな悪意が。

悪意がある存在なんて救われるべきじゃない、報われるべきじゃない。

よって、全てを捧げて蓋になります、それが罪人に相応しい終わり方。

帰ってください……帰って!

「トネリコ!」

助けようとなんて思わないで!

 

 

 

23/08/08()20:04:59No.1087961569

…………本当のことを言ってあげましょうか。

私、貴方が嫌いなんです、心の底から大嫌い。

色々と親切にしたのだって、こうして裏切った時のショックを受けた顔が見たかったから。

私はずーっと、貴方をオモチャとしか見ていなかったのです。

嫌い、嫌い……だいっきらい!!!!

顔も見たくない! ここから去れ!!!!

どう? 私を嫌いになったでしょ? 

私のことなんか消えてしまえと思うでしょ?

なってよ……お願いだから……。

「トネリコ!」

違う、それは私の名前じゃない……。

 

 

 

23/08/08()20:05:29No.1087961745

私、私……誰なんだろう? 分からない、名前がないの!

でも、みんなが苦しんでいたことだけは分かっている!

『死ぬのは怖い』『消えるのは嫌だ』『誰か手を繋いで』って声がした!

だから……『助けてあげたい』と……思って……。

馬鹿だなぁ私、どう見たって貧乏クジなのにね。

 

「君に秘密にしていたことがあるんだ」

え……?

「俺/私は──人を殺した。

 目の前で大切な人が死んで、その原因を作った存在を許せなくて……殺してしまった。

 悪意なら、ほら、俺/私の中にもちゃんとある。

 君と同じ、お揃いだ。

 大切なのは、悪意を持っていることを忘れないこと」

 

 

 

23/08/08()20:05:59No.1087961945

帰ってください、もう取り返しはつかないんです。

私は蓋になる、望遠鏡はずっと壊れたままで……!

「直したよ。部品を一揃い、親切な人から貰ったんだ」

……。

「壊れた物は直そう、出来ないことは二人でやればいい。

 ひとりで王をやるなんて言わないで、一緒にやろうよ」

あ……ああ……。

 

「救世主が夢見たように。

 女王がそうしたように。

 この冥界に新しい物語を作ろう。

 ──罪と悪意を持った人でも、物語を紡ぐことは出来る。

 ──白い地球儀を回して、想いを馳せることは出来る。

 君と……最後まで一緒にいたい」

 

 

 

23/08/08()20:06:35No.1087962185

◆岩屋の中に踏み込む。

 前方から凄まじい風が吹き、自分を押し出そうとした。

 石の欠片が体に当たり、服を肉を切り裂く。

 それでも前に進む、""の元に進む。

 

嬉しい……すごく嬉しい……けど駄目だよ!

そんなことしたら、貴方は石になっちゃう!

記憶も感情もない石、ただの蓋に──。

「なったって良い、君をひとりぼっちにさせないためなら」

記憶……喪失……君……ああ、ううああぁぁ!!

 

""の前まで来た。

 傷だらけの手を広げる、そこに握り込んでいたのは小さな石の欠片。

 

 

 

23/08/08()20:07:05No.1087962412

「この水晶は俺/私の殺人の記憶。

 他者から奪い、傷つけた証明、忘れちゃいけないもの。

 カルデアの本体だって、ずっと覚えているもの」

記憶……喪失……君……。

「君と手を繋ぎたい、君と同じ場所に立ちたい」

私……。

「大丈夫、きっと良い国になるよ。

 良い国に、しよう。

 側にいる、手を離さない。

 だって、君に見つけてもらった時、手が触れ合った時。

 ──本当に心の底から嬉しかったんだ」

ああ……しょうがないなぁ、私の負け、根負け。

貴方と手を繋いで、ひとりにならない覚悟を決めました。

自分達が罪と悪意を持つことを忘れず、ここに石の王国を築きましょう。

貴方と──二人で──。

 

 

 

23/08/08()20:07:41No.1087962638

◆オークニーの国が崩れていく、妖精国の形が崩れていく。

 地が割れて炎が吹き出し、瓦礫が全てを埋めていく。

 そのただ中において、丘の上の岩屋は内側から光輝くと大きな城へ姿を変えて、そして……。

 

◆できたてほやほや、何もかもまっさら真っ白。

 新品な冥界に、ある二人が住んでいます。

 不思議なことに、二人は石にはなりませんでした。

 

 

 

23/08/08()20:08:07No.1087962798

妖精の歴史、情報を本にまとめて……っと。

あっいけない、もうこんな時間!

整理整頓に気を取られて、ごはん食べるの忘れてた!

 

◆ひとりは、眼鏡をかけた綺麗な女王様と。

 

「お疲れ様、今日はこれを作ったよ!」

もしかして……カレーって食べ物?

いただきます! うん、小麦粉!

「スパイスが手に入らなくて……」

美味しいですよ? 炒めた小麦粉と玉ねぎ、なんか葉っぱ。

「ううん……いや……うん……!」

 

◆元人間である王様。

 二人は仲むつまじく国を治めています。

 

 

 

23/08/08()20:08:47No.1087963080

この地球儀は真っ白ですね、私達の冥界とおんなじ。

色を着けたいな、設備だってズンドコ建てなくちゃ!

他の冥界では……ふむふむ、シュメルに閻魔亭、ミクトランパ……。

温泉欲しい、源泉かけ長し温泉欲しいですよね?!

「現世に色が戻ると良いね」

ええ! 私もそう願っています!

だから地球儀を回しましょう、祈りと想いを込めて。

 

◆時に死者の無念を聞き、時に歴史の中で消えた物語を書き留めながら、とても仲良く、仲良し。

 

記憶喪失君……じゃなく、新しい名前を二人で決めたのですものね。

でもそう呼ぶの、まだくすぐったい。

「一緒に言ってみようよ」

それでは、ふふっ、私の大切な──。

「俺/私の大切な──」

 

 

 

23/08/08()20:09:16No.1087963248

◆物語は続いていく。

 罪と悪意を抱いたまま、それでも優しい未来を描いて。

 

 私達は静かに貴方の到来を待つ。

 いつか全ての戦いを終え、横たわり……死の安息を得た『カルデアのマスター』を。

 『お疲れ様』『貴方の物語を聞かせて?』とせがむ日を。

 

 ここで産まれ、死んでいるけれど。

 ──ああ、私達はどうやって生きていこうか?

 ──どんな物語を紡いでいこうか?

 それを思うと……とっても胸が踊るのでした。

 

 

 

23/08/08()20:10:10No.1087963631

おしまい

読んでくれてありがとう

 

 

 

23/08/08()20:12:14No.1087964431

トリスタンが徹頭徹尾忠臣…

 

 

 

23/08/08()20:34:46No.1087974391

>トリスタンが徹頭徹尾忠臣…

カルデアに帰ったら一番叱られるだろうに最後までぐだを思ってさ…

 

 

 

23/08/08()20:13:50No.1087965065

良い童話を見た...カルデアに帰る結末だとおもってたからこんなルートを見るなんて思ってなかった

 

 

 

23/08/08()20:14:06No.1087965168

君達はどう生きるか

見て書きました

 

 

 

23/08/08()20:14:46No.1087965452

エンディングは米津の地球儀…ってコト?!

 

 

 

23/08/08()20:15:01No.1087965557

美しいものを見た。

 

 

 

23/08/08()20:17:29No.1087966569

これデイビットが来てないとハッピーエンドになってないじゃん!

相変わらず良い仕事をしやがって…

 

 

 

23/08/08()20:20:09No.1087967669

最後まで想い馳せる地球儀を回すように...

 

 

 

23/08/08()20:20:15No.1087967716

これからぐだのアルターエゴとトネリコじゃないさんは夫婦として生きていくんだね…

 

 

 

23/08/08()20:21:34No.1087968282

完結おめでとう

…最初の時に他の人も書いてってあったから途中参加しようと思ったけどよくよく考えたらガワだけ使ったオリキャラになっちゃわないか…?と思うと参加できんかった…

 

 

 

23/08/08()20:23:33No.1087969144

>完結おめでとう

>…最初の時に他の人も書いてってあったから途中参加しようと思ったけどよくよく考えたらガワだけ使ったオリキャラになっちゃわないか…?と思うと参加できんかった…

読んでくれてありがとう

「書こうかな?」その気持ちが大切なんだ

俺もやりたい放題やったから大丈夫

その瞬間に開ききれ

岡本太郎もそう言っていた

 

 

 

23/08/08()20:24:35No.1087969636+

ヒリはイケメンだな

 

 

 

23/08/08()20:24:38No.1087969650

岡本太郎が言っていたらしょうがないな!

 

 

 

23/08/08()20:26:37No.1087970565

ぐだ本人は固定ルートに入れないがアルターエゴなら可能!

発明だなこれは…

 

 

 

23/08/08()20:28:39No.1087971543

ここ一週間追いかけて読んでたから感慨深い...

 

 

 

23/08/08()20:31:04No.1087972624

夏イベまでにきちんと終わらせられてよかった

レスもついて楽しかった

それじゃあ文章書くことに戻るから…

 

 

 

23/08/08()20:31:17No.1087972717

うーん

ちょっと世界観お借りして一本書いてみる…かなあ

読み直しが必要だけども

 

 

 

23/08/08()20:36:53No.1087975429

二人が治めるなら死んだ妖精たちも安らげるだろう…

 

 

 

23/08/08()20:37:54No.1087975908

サラッと飛び入りで来て颯爽と美味しいところを取っていくレッドラビットには参ったな!

 

 

 

23/08/08()20:41:11No.1087977501

トリスタンとレッドラがかっこいい…