
20/07/15(水)20:41:59No.708811671
「……おや、こんなところに。お隣よろしいですか?立香クン」
そういって、眼鏡をかけた競泳水着姿の寮姉…ジャンヌが自分の隣に腰掛けてきた。
今日は旅行と称して友人達で離れた場所にあるこの海辺の砂浜で夕方近くまで遊び込んでいた。その友人達の中には寮姉として皆から慕われ、今ではプライベートでも(弟として?)仲のいいジャンヌも含まれていたのだった。そして皆が一旦ホテルに戻った後に何となく、海岸で夕日が見たくなって砂浜で一人佇んでいた所だった。
「綺麗な夕焼けですねー…」
「うん、そうだね」
なんて、つい気の抜けた返答する。ジャンヌは軽く微笑んで、それからは一緒に夕日を眺めていた。少しの間そうして佇んでいると、隣にジャンヌがいる事を一瞬忘れて景色に耽ってしまう。それぐらいに茜色に煌めく水平線は美しかった。
「…お悩み事ですか?」
「え?」
不意のジャンヌの言葉に思わず振り向く。
20/07/15(水)20:42:39No.708811892
「…どうして?」
「何か物憂げな顔をしてる様に見えたので…相談事があるならお姉ちゃんが幾らでも乗りますよ?」
気が抜けてたとはいえ表情には出してなかったつもりだったけど、心の内を見透かされた気分になって、少し俯く。
今年の夏は本当に楽しい。学校では色んな人が声をかけてくれるし、毎日マンドリカルド達と遊んで、輝かしい学生生活を満喫しているのは間違いない。
それでも、胸の奥にある薄暗い不安が拭えないのは確かだ。学校で度々起こる不穏な出来事、記憶の断片的な欠落。一つ一つは取るに足らない事なのに蓄積した小さな違和感が心の中に沈殿しているのを感じる。
20/07/15(水)20:43:06No.708812049
「立香クン?」
不意に至近距離から聞こえる声に思わず身を反らす。視線を横に向けるとジャンヌの顔が目と鼻の先にある事に気づく。するとジャンヌはニコッと微笑んで、
「少しお話しましょうか!この夏の思い出のこと。立香クンがどういう学生生活を送ってるのか詳しいところまでは聞いてなかったものですから!」
と、言ってきた。それは多分、ジャンヌなりの気遣いなのだろう。ここのところ彼女には寮の事や何やらでずっと迷惑をかけてしまって申し訳ない。それでも今はつい、彼女の優しさに甘えてしまう。
「…うん、ありがとうジャンヌ。そう言えば、この前──」
それから三十分程、他愛もない話をしながら時が流れた。バベジン先生の授業が暑苦しい事とか、アルジュナ達とカラオケに行った事とか、親戚のカーマちゃんが可愛くてつい構ってしまう事とか、とにかく色々。その間ジャンヌは本当に楽しそうに相槌を打って、とにかく沢山笑っていた。彼女と話しているといつの間にか、胸に蟠っていた不安が消えていた事に気づいた。
なんとなく心地良い雰囲気な中、滔々と話して続けいるとふと、潮風が吹いてジャンヌの黄金色の髪を靡かせた。
20/07/15(水)20:43:34No.708812210
「──あ…気持ちいい風、ですね」
「────。」
彼女とは寮でよく会う親しい関係だけど、前に彼女が気になる人とのデートの練習にも付き合った事もあるから、出来るだけ、なるべく、可能な限り、そういう目で見ない様にしていた。でも。この黄昏の光に煌めく彼女はあまりにも──。
「綺麗、だね」
「え?」
つい、思った事が口に出てしまった。でも不思議と取り繕う気も起きなかった。
少しの間の沈黙。若干気まずくなって、顔を見ることも出来ず目を伏せていると、
「ふふ、立香クン。私が何で今ここにいるのか、分かりますか?」
と、急にジャンヌが聞いてきた。質問の意図が今イチ読めなかった。
20/07/15(水)20:45:03No.708812772
「えっと…ジャンヌも夕日が見たくなったから?」
「それもありますね。でも一番の理由は貴方があまりにも帰ってこなかったので心配になったからなんですよ」
彼女はそう言うが、あまりに、という程俺は皆と離れていた訳ではなかった。時間的にはジャンヌとこうして話していた時間の方が長かったはずだ。夕食前には帰ると告げていたし、そこまで心配されるほどの事はしていなかった筈、だけど…
「ジャンヌ、嘘ついてない?」
「ついてはいませんよ。貴方の事がとても心配でついホテルから出て来てしまった、これは本当の事です。立香クンは危うくて放っておけないところがありますから。……それとも」
そう言いながらジャンヌはゆっくりとこちらに身を寄せてくる。
潮が波立ち、飛沫を上げる音がした。
20/07/15(水)20:46:10No.708813165
「──それとも、私がこんなにも貴方の事が心配で、気になるのには……もっと別の意味があると…思いますか?」
心臓が跳ね上がるのを感じた。見るとジャンヌは瞳を細めて意味深な笑みを浮かべながら俺を見つめている。その表情だけで何を意味しているか分かった。
気づけば、ジャンヌの指が俺の指と重なっていた。俺の鼓動がジャンヌの手を通じて伝わっていく。
「…ジャンヌ」
「…ふふ。緊張してます?」
くすりと笑い、瞳を閉じたジャンヌの顔が近づいてくる。
本当に綺麗だな、なんて呑気な感慨に浸る間もなく、彼女の柔らかい唇が俺の唇に触れた。
ゆっくり、啄ばむように、軽く吸い付いては離すの繰り返し。舌は絡めずただほんのりと濡れた彼女の唇に触れるだけ。それだけで気分がどこまでも高揚する。
20/07/15(水)20:48:01No.708813797
「は──ぅん…」
唇を離す。キスに夢中で遮断されていた嗅覚を花のような甘い匂いがくすぐる。瞼を開くとすぐ目の前にはほんのり頬を赤らめて微笑を浮かべる彼女がいた。
2回目はどちらともなく、
3回目は互いの顔が離れている事に名残惜しさを感じて、
抑えた吐息交じりの彼女に、何度も唇を押し付けた。
「ん──ふ……ぁ」
ジャンヌの眼鏡がキスの度にかちゃかちゃと小さく音を立てる。その音すらもどこか艶めかしく思える。
そしてお互いに少しづつ肉体が火照っていくのを感じ、より深くキスを重ねようとする直前──彼女の方から唇を離した。
途端、顔を伏せて黙ってしまったジャンヌのしなやかな肩を、俺の腕が半ば反射的に掴む。
その瞬間に俺の唇に彼女の人差し指がぷに、と触れた。
「……ダメ、ですよマスター。ここまでです」
20/07/15(水)20:48:59No.708814096
その言葉でハッ、と我に帰る。自分が思っていた以上に強く掴んでいたジャンヌの肩から手を離すと、彼女は少しだけその身を遠ざけた。そんな仕草になんとなく申し訳ない気持ちになりつつも、俺はもう少しだけ彼女に触れていたくなった。
「ジャンヌ、俺は…」
「ふふ。一夏の過ち、という奴です。少しあてられちゃいました。私も寮姉として規則正しい行動を取らなければ」
そう言って遮るジャンヌ。勿論、校則に男女間の恋愛禁止などという物は無い。これはジャンヌがその場しのぎで口にしているだけに過ぎないのだろう。
それでも、敢えて自分は何も言わなかった。いや、言えなかった。
分かってはいた。だって、本当はジャンヌは、ジークの事が──
20/07/15(水)20:49:57No.708814415
「弟クンにはまだまだ目眩く夏の思い出が待っているのですから、私がそれを独り占めしてしまう訳にはいかないのです」
“それでも構わない、と言ったら…?”
そんな事を思ってると、ジャンヌは不意に立ち上がり、大腿についた砂粒を払う。そしてもう一度俺に向かって微笑むと、そのシルエットが海岸からの夕陽に照らされた。
目が眩む様な美しい姿に思考を奪われて、ホテルへと歩いていく彼女に声をかける事が出来なかった。遠ざかっていく後ろ姿を名残惜しくぼんやりと眺めていると、ジャンヌはちらと振り向き、いつもと変わらない慈愛に満ちた眼差しで呟いた。
「……皆にはナイショですよ?」
20/07/15(水)20:50:30No.708814587
どこかの選択肢で分岐する夕日の寮姉ルートです
20/07/15(水)20:51:29No.708814890
夏聖女の甘酸っぱいロマンスに私は光を得た
20/07/15(水)20:53:16No.708815432
本気出してきたな…
20/07/15(水)21:01:12No.708817902
寮姉に不意を突かれた
20/07/15(水)21:14:54No.708822745
私はいいと思う

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たまらん
アリエス
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アリエス
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アリエス
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と思ってしまって済まない…
アリエス
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忠士の相さんは見習って
アリエス
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……ん?あれ、何でジャンヌが姉だなんて思って…?
それに、俺にはジャンヌ・オルタが…うっ、頭が………
アリエス
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