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【FGO】カーマ怪文書 逃げ切れなかったぐだカー【DEAD END】


2019/04/28 09:16:07 No.586988760

その時の私は、他人から見ればどれだけ奇異に映っただろうか。仕事にやる気のないことでは人後に落ちない私が、人が変わったように真面目に働いているのだから。
ある人は言った。「旦那さんにプレゼントでも買うのじゃないか」と。
またある人は言った。「きっと子育てのためのお金を稼いでいるんだろう」と。
そんな他愛のない噂すら気に障った。私のこともあの人のことも、何も知らないくせに。けれど、自分が何をしようとしているか思い返すよりは、ずっとよかったかもしれない。
私は、この子を殺すために、自分が死ぬために、必死で働いているのだから。

 

 

 

 2019/04/28 09:16:27 No.586988801

子供を堕ろすには手術が必要だ。
けれど、私と彼が今まで稼いだお金を動かすわけにはいかない。彼にこのことが知られてしまうことは、絶対に避けなければならなかった。
それに、あの人が私とこの子のために苦労をして稼いだお金を、この子を殺すために使うことなど、私にはできなかった。
だから、大嫌いな仕事を増やしてでも、周囲からどう思われても、私だけがその在処を知っているお金を用意する必要があった。
心が軋む。自分が最も嫌うことに耐えて得た報酬で、私は愛するわが子を消そうとしているのだ。
やめてしまいたい。こんなことは今すぐやめて、あの人のぬくもりに包まれていたい。きっと私が望むなら、あの人は誰よりも優しく、誰よりも激しく、私を愛してくれるはずだから。
けれど駄目だ。そんなことをしたら、あの人の幸せはどうなるのだ。
解けて崩れ落ちそうになる心を縛り付けて、無理矢理前を向かせる。耐えなければ。あの人の今までの苦しみを想えば、このくらい---

 

 

 

2019/04/28 09:17:31 No.586989040

「残念ですが、人工妊娠中絶は受け入れられません」
医者にそう告げられたとき、私は動揺を隠せなかった。
何故。まだ私の意思で、堕ろすかどうかを決められる期間の筈だ。
「人工妊娠中絶が認められるのは、出産によって妊娠している人の身体に著しい危険が及ぶか、子供をもつことによって耐えられないほどの経済的負担がかかる場合です。見たところ、あなたと旦那さまの収入は十分安定していますし、子宮外妊娠などの致命的な異常も認められません。それに、法律で許可される期間内というだけで、この時期の中絶は母体であるあなたにも相当な負担がかかります。その上、旦那さまに内密にとなると、医師としては手術をするわけにはいかないのです」

 

 

 

2019/04/28 09:18:07 No.586989217

最もな話だった。他人から見れば、私にはこの子を堕ろす十分な理由がない。呪いの話などしても、一笑に付されるか正気を疑われるのが関の山だろう。
状況は絶望的だった。けれどこんなことは、これから始まる真の苦しみの前触れに過ぎなかった。
「ん…?すみません、失礼を承知で御伺いしたいのですが、旦那さまに内密にというのは、もしや…」
何だ?言っている意味が分からない。
「大変おっしゃりにくいことを伺っているのは承知しております。しかし、もしそうだとすれば…あなたが旦那さまに、力ずくで従っているとすれば…」
目の前の男に掴みかかりたい衝動を、私は必死で堪えていた。許せない。許せない。あの人がどんなに優しいひとか、どんなに尊いひとか、何も知らないくせに---

 

 

 

 2019/04/28 09:19:26 No.586989539

ここでこの男に平手打ちでも喰らわせて病院を出ていけたなら、どんなに気が楽だっただろうか。この事態を解決する方法を一つ失ったとしても、私の一番大切なものを汚すことはなかったのだから。けれど、私の想像より、現実はずっと残酷だった。
「先程検査をした際に、あなたの腹部に打撲のような痣があったと、看護師から報告がありました。もしあなたがそのような事実があったと認めていただければ、当院としても手術の選択肢は考えられます」
さっきまで怒りに打ち震えていた私の心が、今度は絶望のどん底に墜ちていった。運命は私に、最悪の二択を突きつけたのだ。
このまま医者の話に同意して、彼に虐げられていたと偽れば、この呪いがこの世に生まれ落ちることはない。けれど、あの人の想いを裏切ることなど---
目の前が真っ暗になった。どうすればいいというのだ。苦しい。もう嫌だ。お願い、たすけて---

「ずっと、愛してるよ。カーマ」

ああ、わかっている。もう私には、こうするしかないのだ。

 

 

 

2019/04/28 09:19:36 No.586989573

「はい……!ですから、お願いします……!!
残された精一杯の力で、言葉を絞り出した。
私は自分が何より大切にしていたものを売って、この子と生きる未来を断ち切ることを選んだのだ---

 

 

 

 2019/04/28 09:17:44 No.586989102

おつらい

 

 

 

 2019/04/28 09:20:27 No.586989758

そういうのやめろ!

 

 

 

2019/04/28 09:20:41 No.586989833

そのあと医者と何を話したのか、まるで覚えていない。どうやって家に帰ったのかも、何も覚えていない。
部屋に入って扉を閉めて、私はあらんかぎりの力で、自分の身体を打った。
全部潰してしまいたかった。彼の想いを貶めたこの舌も、彼を汚す言葉を吐いたこの喉も。自分の全てが憎かった。何もかも壊してしまいたかった。そうしなければ、自分を許せなかった。
身体など痛くない。けれど心は、どうしようもなく痛いと悲鳴をあげていた。
彼のところに行きたかった。行って何もかも吐き出して、彼の胸の中で泣きたかった。けれど、現実は私にそれを許さなかった。

 

 

 

2019/04/28 09:21:01 No.586989900

彼が会社に行って、パートの仕事の時間になっても、私は部屋から出ようとしなかった。
携帯には私の安否を問う電話がひっきりなしにかかってくるけれど、それを取る気には微塵もならなかった。
彼と以外、誰とも話したくなかった。けれど、どんな顔をして彼に会えばいいというのだろう。私にそんな資格なんてない。行ったところで、彼を傷つけるだけだ---
目を覚ますと、とうに日は傾いていた。
どれほど眠っていたのだろう。彼に心配をかけてしまっただろうか。
普段通りの生活に戻らなくては。彼に怪しまれては元も子もないのだから。けれど、もう身体が動かない。もう、動きたくない---
そのとき、部屋のドアが、前触れもなくそっと開いた。

 

 

 

2019/04/28 09:21:48 No.586990158

入ってきた彼の表情を見て、私は言葉を失った。私が見たこともないような。怒りと苦悩と悲しみがない交ぜになったような、とてもとても重苦しい顔。
「ねえ、カーマ。これ、何?」
絞り出すように、彼が口にする。そう言って彼が差し出したのは、私の手術の契約書の写しだった。

 

 

 

 2019/04/28 09:22:00 No.586990229

「最近体調が悪そうだったから、かかりつけの産婦人科の先生に聞いてみたんだ。でも、いつもなら俺にも何があったかくらいは教えてくれるのに、今回は答えられないの一点張り。あまりにも普通じゃないから、事情を細かく説明して証拠まで出して、やっと教えてもらったら、こんなものが出てくるなんて---」
心臓を掴まれたような気分になった。もう、隠しきれない--
「ねえ、何で俺に何も言ってくれなかったの?もしかして、俺の知らないところで、何か辛いことがあったのかもしれない。もしかして俺が知らないうちに、君に嫌なことをしてたのかもしれない。俺に不満があったのかもしれない。
でも、こんなのってないよ…!何か悪いところがあったなら謝るよ。許してもらえるまで何でもするよ…!でも、どうしてこんな…!そんなに、俺のこと信じられなかったの…?俺は真剣に君のことを愛してるのに、こんなの、ひどいよ……!!」
今すぐ彼を抱きしめてあげたかった。そうして、全部話してしまいたかった。
でも---

 

 

 

 2019/04/28 09:22:40 No.586990539

「はあ?何を言ってるんですかぁ?あなたの懺悔なんて、聞いてもこれっぽっちもおもしろくないんですけど」
私の口は、勝手に言葉を吐き出していた。
「あなたがあまりにも無様だったから、今まで嫌々恋人ごっこに付き合ってあげてたんですよ?それが、こんな重石を仕込んでくれて。ほんと、いい迷惑です」
「え…っ…」
私、今、何を言って--

 

 

 

 2019/04/28 09:22:50 No.586990587

「ねえ、何かの間違いだよね…?きっと理由があるんだよね、カーマ…?」
彼の顔が悲痛に歪む。なのに、私の口は、止まってくれない--
「理由?もちろんありますよ?あなたのその間抜けな顔を見たかったから、こんなことを今までわざわざやってたんです」
やめて、もう何も言わないで……!
「嘘……だよね……?カーマ……!」
彼の手を、私の手が振り払っていた。
「しつこいですね……!!何度言ったらわかるんですか……!!私は……!」
違うのに…!
「あなたなんか…!」
お願い、やめて………!
「大嫌いです……!!」
いや、いや、いや……!

 

 

 

 2019/04/28 09:23:15 No.586990684

何もかもが静まりかえった。そして--
「ごめん…」
彼が駆け出して行く音が、静かに遠ざかっていった。

「ぁあ…ぁああ……ぁあああああっっっっ……!!!」
必死で堪えていた涙が、堰を切って溢れ出した。
裏切ってしまった。傷つけてしまった。悲しませてしまった………!!
彼はあんなに私を想ってくれていたのに。私のことを、愛してくれていたのに……!
なのに、私は、彼にあんな酷いことを……!

何もかもがどうでもいい。彼の愛を棄ててしまった自分のことなど、もうどうなったっていい。
彼に嫌われてしまったなら、もう、生きている意味なんてない。
机の上のナイフが、答えを示すように、ただ鈍く光っていた。

 

 

 

 2019/04/28 09:20:55 No.586989880

お腹の子に何の罪が…

 

 

 

2019/04/28 09:43:43 No.586995440

>お腹の子に何の罪が…
産まれることが罪だとでも

 

 

 

 2019/04/28 09:23:30 No.586990745

絶望に突き進む運命―

 

 

 

 2019/04/28 09:23:33 No.586990757

 

朝っぱらからなにしてんの…

 

 

 

2019/04/28 09:23:51 No.586990838

いいぞ…

 

 

 

2019/04/28 09:24:29 No.586990958

とりあえず以上です
ライネスちゃんまさかの☆5鯖にびっくり
次で完結予定です

 

 

 

 2019/04/28 09:24:56 No.586991043

いいクリフハンガーしやがってよぉ!

 

 

 

2019/04/28 09:25:36 No.586991196

ここで切るのか!?

 

 

 

2019/04/28 09:32:25 No.586992816

私このシリーズ好き

 

 

 

 2019/04/28 09:49:44 No.586996868

結婚して幸せなキスしたとこまで見た気がするけどなんでこんなことになってんの!?

 

元スレ:http://img.2chan.net/b/res/586988760.htm

 
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