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20/20/09/20()21:25:57No.729571062

ぐだ沖で嫉妬話

ヤンデレ沖田さんとかあったなぁと思いつつ


「「いただきま~す」」

お昼には遅くおやつにはまだ早い、人もまばらな昼下がりの食堂。片隅の席で沖田さんと声を合わせて柏手を打ち、美味しそうに焼き上がった焼き芋に二人揃って手を伸ばす。銀色の包みを剥けば、鮮やかな紫と特有の甘い香りが熱く出迎えた。

「あ~……むっ。はふはふ……うん、やっぱり自分で作ると美味しさも格別ですね」

「うん?…………そうだね」

『自分で作る』などと言ってはいるが、やった事はと言えばさつまいもを洗ってアルミホイルで包んだだけ。後はオーブンに放り込んでひたすら待つのみ。これをして『作った』と語るのなら、カップ麺にお湯を注いで『ラーメンを作った』と騙るも同じなのだが……そこは気分の問題という奴なのだろう。

深く考えない事にしてぱくりと一口。中の方はまだ熱がこもっており、口内が熱くなる。その熱が引くと、今度はホクホクとした食感と優しい甘さが顔を出した。

「……ん、美味しい」

「ですよねっ」

素朴な感想を口にすると、何が嬉しいのか、彼女はにっこりと笑った。それがなんだか可笑しく感じられて、思わず笑みが溢れる。

「焚き火をしなくても美味しい焼き芋が食べられる……良い時代になったものです」

「そうかなぁ?俺は逆に憧れるな、焚き火の焼き芋って。一回もした事ないからさ」

「そんなに良いものじゃありませんよ?煙は出るし、火の通り具合を調整するのも難しいですし。そもそも落ち葉を集めるのも、後処理も結構手間ですし」

憧れを語ると、彼女は一つ、二つと指を折って欠点を挙げていく。経験者の言葉は重みが違って、なんだか夢を壊されたような気分だ。

「ふぅん、そういう物なのかぁ……でも、折角だし今度やろうよ。一回くらい体験しておきたいんだ」

「まあ、構いませんけど……本当に色々と面倒ですよ?」

苦笑しつつそう言って、ぱくりと一口、ご機嫌に頬張る。

この様子だと、デートのお誘いだという事に気付いていないのだろう。『そういう関係』になっても、この手の事には相変わらず鈍いらしい。曖昧に微笑を返し、焼き芋に向き直る。

「ふんふふ~ん♪秋の味覚は最高ですね」

まだ半分少々を食べ終えたばかりのこちらを他所に、彼女は鼻歌混じりにおかわりに手を伸ばす。底抜けに幸せそうなその姿を見ていると、胸の奥が温かくなっていくのが感じられた。

「……あの、どうかしましたか?私の顔に何か付いてますか?」

「えっ?あ、いや。ちょっと考え事してただけ。ほら、サーヴァントはいいよね、って。どれだけ食べても太らないんだから」

余程まじまじと見ていたのだろうか、彼女は不思議そうに首を傾げて見せた。そんな彼女に胸の内を明かすのは少し照れ臭くて、全く別の事を口してしまう。

「ええ、それはもう!……まあ、例外はあるみたいですけどね」

「ああ……そう言えばそうだったね」

その例外を覚えている辺り、その辺は意外と気を使っているのだろうか……等と考えている間に、彼女はにっこりと笑った後、大きく口を開けて焼き芋に齧り付く――前に、はたとその動きが止まる。視線は空中を彷徨い、何事か思案しているらしかった。

「……もしかして暗に、『沖田さん食べ過ぎだよね』って言ってます……?」

「…………さ、俺も二本目食ーべよ、っと」

「ちょっと!」

「な、何?俺は別にイエスとは言ってないけど……」

「ノーとも言ってないじゃないですか!って言うか今の話の逸らし方は完全にイエスの方でしょう!」

「……あっはっはっ」

「何笑ってるんですか!」

「ウソウソ、冗談冗談。美味しそうにいっぱい食べる沖田さんは可愛いよ?」

「っ……ま、また、そんな冗談めかして話を逸らして……いいですけど、別に」

「チョロ――ああいえ何でもないです何でも!ほら、焼き芋食べよう焼き芋!」

「まったくもう……」

 

 

 

「マスター、私ノーマル」

「んむ?……私オルタじゃないですか」

そうして談笑している最中、背後から掛けられた声に振り向くといつの間にか魔神さんが居た。彼女が気配を消すのが上手いのか、あるいは話に花を咲かせるのに夢中だったのか。

「あれ、魔神さん、一人?珍しいね」

「うん。お風呂掃除を手伝ってきたところだからな」

「そっか。偉い偉い」

いつもの彼女なら子供の様にふふんと胸を張っただろうが、今回はそうではなく、視線をじっとこちらの手元へと注いでいた。目は口ほどに物を言うとはまさにこの事で、焼き芋を食べたい、という彼女の想いを雄弁に物語っている。

「焼き芋、一緒に食べる?」

「!」

「……!いいのか?」

その視線に気付かない振りをする理由も無い。一緒に食べようと提案すると、彼女はぱあと目を輝かせた。その表情といい、甘い物が好きなところといい、本当に沖田さんとそっくりだ。

「勿論だよ。ね、沖田さん」

「はあ……別にいいですけど」

沖田さんに同意を求めると、先程までの幸せそうな雰囲気は何処へやら、ため息と共に少しぶっきらぼうな言葉が返ってくる。物言いたげな視線に加えて尖らせた唇……機嫌を損ねてしまったらしい事は分かるが、その原因には見当もつかず、また彼女も言うつもりはないらしい。

頭に浮かんだ疑問符は解決の糸口さえ見せないので一先ず脇に置いておいて、魔神さんの方へと向き直る。

「ありがとう、二人とも。……しかし、貰ってばかりというのも駄目だな。まじんさんからはちょこのお返しだ」

「ははは、別にそんなの気にしなくていいのに」

「そういう訳にもいかないぞ。こういう時は、えっと……等価交換?が基本らしい」

「いやいや、全然等価交換になってませんから、ソレ。価値が違い過ぎますから」

「む。そうか?」

「そうですよ……」

「ふむ。とにかくマスター。あ~ん、だ」

「うん……えっ?」

「はあっ!?

目の前に差し出されたチョコレートの欠片。それよりも気になるのはその言葉の方。急な事に思わず驚きの声が出たが、何故か沖田さんの方が驚きが大きかったらしい。焦り交じりに大きな声が飛ぶ。

「ちょっ、何やってるんですかあなた!そんな、あ、あーん、とか……!」

「……?私とマスターは仲良しだ。仲良しはこうするものだと聞いたのだが……駄目か?」

「だっ、駄目に決まってるでしょうが!」

「何故だ?」

「何故って、だって……!」

必要以上に必死とも思える気迫で否定の言葉を投げた彼女はそこで言葉を切った。怒ったような、けれど、どこか困ったような表情でこちらを見てくる。

「ま、マスターはいいんですか!?その、あーんとか、ほら、アレじゃないですか!」

「えっ?俺はこれくらいなら別にいいよ……?ちょっと恥ずかしいし、びっくりはしちゃったけど、仲良しだって思ってくれてるのは嬉しいし」

「っ……そう、ですか。『これくらい』ですか……」

サーヴァントから親愛を示されるというのはマスターとして普通に嬉しいので、こちら側に断る理由は無い――それを口にすると、彼女は静かに顔を伏せた。

「ん、マスター」

「うん。あ~……ん」

差し出されたものを直接口に含む。焼き芋とは別種の甘い味わいで悪くない。

ちらと盗み見ると、魔神さんは静かに目を細めていた。……何だか餌付けされているような気分。

「マスター。私にも」

「うん?そうか……そうだね」

「あ~……」

お返しにと、彼女の口元へ焼き芋をあてがう――

「むっ……む?」

 

その刹那、目にも留まらぬ速さで伸びた腕が焼き芋を掠め取った。

 

「ちょっ、いきなりどうしたの沖田さ――えっ」

視線を向けた先にはキッと鋭く睨む双眸。じんわりと涙の滲むソレに宿っていたのは、戦場で見せる無機質なモノではなく。熱を帯びた剥き出しの、子供染みた怒り。思わず言葉に詰まる。

「あ……っ」

けれど、そんな瞳を見せたのもほんの一瞬の事。すぐにはっとしたような、そして今にも泣き出しそうな表情に。

「私ノーマル。それは私の――むぐっ!?

「っ!」

文句を言おうとした魔神さんの口を封じるように、その手に持った焼き芋を押し込んだ後、あっという間に食堂を出て行ってしまった。

「ぁ……ま、待ってよ沖田さん!ごめん魔神さん!また後で!」

「むぐむぐ……ん、わかっふぁ……」

そんな彼女を放っておく訳にもいかず、魔神さんに一声かけて後を追う。

 

 

 

 

「……やっぱり、ここに居たんだね」

マイルームの扉を開けると、ベッドの上には膝を抱えた沖田さんの姿があった。声を掛けてもその背がびくりと揺れただけで返事はなかったが、時間を置いて多少は冷静になったのか、今度は逃げ出す素振りは無かった。……もっとも、そのつもりならそもそもマイルームに来ていなかっただろうが。

静かに彼女の方へと歩み寄る。すぐ側まで近付いても、彼女は相変わらず無言で振り返ろうともしない。話は聞くが顔は合わせたくない、と言ったところだろうか。その意を汲んで、背中合わせにベッドに腰掛ける。

「ごめんね、沖田さん。その、いくら魔神さん相手とは言え、俺がああいう事するの、嫌だったんだよね……?」

「っ……」

どうやら正解だったようで、背中越しに彼女の揺れが伝わる。

魔神さんはまだ幼い部分もあるから、と流されるままにしていたが……他の女の子と仲良くするなんて、それも彼女の目の前でだなんて、駄目な事だと気付くべきだった。例えそれが、『マスターとして』必要な事、あるいは褒められた事だったとしても。

「……そう、ですよ。嫌に決まってるじゃないですかっ。あんな、目の前で……!」

絞り出したような言葉と共に、こつんと背中に彼女の頭がぶつかる。弱い力のそれはしかし、酷く重く感じられた。

「あなたにとっては、『これくらい』で済むような事なのかもしれませんけど!全然気にするような事じゃない、普通の事なのかもしれませんけど!……でも、私にとってはそうじゃないんです……」

「うん」

「初めて、なんです。この気持ちも、なにもかもが……初めてなんですよ……っ」

「……うん」

薄く涙の滲んだ独白は、重い響きを以て心を揺らす。ソレをただ、静かに受け止める事しか出来ない。

「私だって、我慢しようとはしたんです。あなたにとっては何でもない事だから、そんな事でワガママを言ってもあなたを困らせるだけだって!でも……!」

脳裏に浮かんだのは、彼女の怒った熱い瞳と、その直後の泣きそうな表情。

「でも、どうしても!……我慢、出来なかったんです……」

静かに振り返る――震えるその背中は怯えた子供のように小さく、そして寂しげに見えた。

 

 

 

 

彼女が胸の内に抱えた物を曝け出した後、暫くの間は互いに無言のまま、押し殺した嗚咽だけが唯一マイルームに響く。

「……我慢しなくていいよ」

ゆっくりと一つ深呼吸し、そんな沈黙を破る。出来るだけ優しく、けれど毅然とした声色で。

「え……?」

振り向いたその瞳は僅かに赤く。それが酷く痛ましく感じられて、ぐっと唇を噛む。

「我慢なんて、しなくていい。君が思った事は、全部俺に話して。君の感情を、俺にぶつけて」

「で、でも……私、きっとワガママを言っちゃいます……っ。さっきみたいに、あなたを困らせて、当たったりも……」

「……そうかもね」

彼女が何を恐れているのか……何故恐れているのかは、まだ分からないけれど。きっと、彼女の言葉は正しいのだろう。だからこそ否定はしない。

「でもきっと、それでいいんだと思うよ」

「え……?」

「確かに、我慢するのは大事だよ。それで上手く行く時もあるから。でも、上手く言えないけどさ。俺達の間でそれは……それだけじゃ、悲しいよ。君も……俺も」

見つめ合ったその瞳が、揺れる。

「だからさ。我慢しないで、ワガママもちゃんと言って、全部ぶつけてよ。……俺もきっと、受け止めてみせるから」

「っ…………じゃあ……早速、ワガママ言ってもいいですか……?」

「うん。何でも言って」

そう言って笑顔を見せるが早いか、彼女はこちらへとしなだれかかって来た。その体へと手を回し、抱きとめる。

「もうちょっとだけ……もうちょっとだけ、こうしていたいです……」

「……うん」

音も無く、声も無く。静かな時間。

ただ二人、互いの温もりを感じて過ごした。



09/20()21:47:16No.729582076

こういう時女の子らしすぎるほど女の子な沖田さんいいよね…

他のサーヴァントだったらこうはならないし

 

 

 

20/09/20()21:54:56No.729586097

初めてだとか他の人でも言えそうな弱い理屈しか搾り出せないの良いよね…

 

 

 

20/09/20()21:57:42No.729587558

FGOの可愛い沖田さんと帝都のキリングマシーン沖田を同時に摂取することにより頭がおかしくなって死ぬ

死んだ

 

 

 

20/09/20()22:04:47No.729591114

>FGOの可愛い沖田さんと帝都のキリングマシーン沖田を同時に摂取することにより頭がおかしくなって死ぬ

それは俺も感じてる

乙女な沖田さんを書く合間に帝都を見ると頭ガンガン殴られるような感じでこれは…脳がバグる…

 

 

 

20/09/20()22:11:05No.729594214

長い!重い!

でもこういうのいいよね…