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20/08/09()23:11:34No.716468879

雪を見ると、初恋の人を思い出す。

子供の頃、家から少し歩いたところに、大きな日本式の屋敷があった。

周りの大人は口を揃えて「怖い人たちがいるからあのお屋敷に近づいてはいけないよ」と言っていた。

そんなことを言われたら近づきたくなるのが子供心だけど、

周りを囲む高い塀と、その向こうからこちらを見下ろす高い木は人を寄せ付けない威圧感を放っていて、

時々黒いスーツを着た目つきの鋭い大柄な男たちが出入りするのも見たこともあり、

子供ながらに確かに近づいたらいけない場所なんだ、と理解していた。

ある日、今はもう忘れてしまったけれど、どこか別の場所へ向かう途中で、

その屋敷に入っていく一人の女性を見た。

薄桃色の着物と、艶やかな黒髪を携えていて、横顔を少し見ただけで、綺麗な人だと思った。

それが、俺の初恋だった。

そして、その恋は一瞬で敗れた。

 

 

 

20/08/09()23:11:54No.716469009

その女の人のすぐ後ろに、眼鏡をかけた大人の男の人と、彼と手を繋いだ二人と同じ黒髪を持った俺と同じ歳くらいの女の子もいたからだ。

ほんの一瞬見ただけでも、3人はとても幸せそうで、満ち足りていて、

そして大人たちの言うこととは裏腹に、至極普通の人たちに見えた。

 

その女の人が門の向こうに消えた後、彼女を二度と見ることはなかった。

…いや、一度だけあったかもしれない。正直なところ、自信がない。

あれは、彼女を最初に垣間見てから何回か季節が巡って、また冬がやってきた時だった。

学校からの帰り道、雪が降りしきる坂道の上に、何の前触れもなく彼女はいた。

雪景色に溶け込むような白の着物と、青い帯。確かに前回見たときと同じ顔、髪のはずなのに。何かが違う気がした。

 

 

 

20/08/09()23:12:22No.716469180

「ご機嫌よう、藤丸くん」

 

言葉が出ない。どうしてこの人が俺の名前を知っているのか、どうしてこんな場所で待っていたのか。

疑問が頭に浮かんでは消えてゆく。まるで夢みたいに、自分の意識をコントロールできない。

…あれ…ここはどこで…今はいつで…俺は…?

 

「大丈夫。あなたの言う通り、これは束の間の夢。何も難しく考える必要はないわ」

 

彼女の嫋やかな声が頭の中に響く。

 

 

 

20/08/09()23:12:33No.716469256

「ここで、何を…?」

「何も用事はないわ。強いて言うなら、あなたに会いに来ただけ。これで、またあなたと会える。

…あなたにとっては、もう少し先の話かしら? あの景色で、また相見えるのを楽しみにしているわね。『マスター』」

 

そう言い残して彼女は消え、気が付けば俺は自宅に戻っていた。

…自宅?違う。ここはカルデアのマイルームだ。

 

「……?」

 

寝起きのように、意識がはっきりしない。何かを夢見ていた気がするけれど、もう何も思い出せない。

 

(またレムレムしかけたのかな…後で診てもらおうか)

 

どこか腑に落ちない違和感を抱えながら、俺は普段の作業に戻った。

 

 

 

20/08/09()23:13:05No.716469470

……案の定、レムレムしてしまった。

今度はひどく殺風景な、辺り一面の白。

「……またおかしな夢だね、マシュ。」

隣に居ないと知りつつも、癖でマシュに語り掛けてみる。

返答を返したのは、違う女性だった。

「あら。ここにお客様が来るなんて、どんな間違いかしら。

夢を見ているのなら、元の場所にお帰りなさい。

ここは境界のない場所。名前を持つアナタがいてはいけない世界よ?」

「あれ…あなた、は……」

「……?アナタ……

ああ…なるほど、そういうことね。縁を結んでしまったのはこちらの方みたい。

『私』も大それたことをする…いえ、したものね。…『あの子』に二度も負けるのが癪だったのかしら?

杞憂なのは分かりきっていることだというのに…

不肖のサーヴァントかもしれないけれど…どうか『私』をよろしくね、気の多いマスターさん。」

 

 

 

20/08/09()23:14:16No.716469934

あいつ