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0/06/01()23:56:47No.695499866

「マシュ…ごめん、ね…」

もう駄目だ。今まで多くの傷を受けてきたからこそ、直感で分かった。もう、立てない。戦えない。進めない。

「先輩!そんな…!ダメです!眼を開けてください!先輩!!」

マシュの声が遠くでこだまする。…すぐ、近くにいるはずなのに。音も視界も、総てが暗く、遠くなっていく。

(ああ、悔しいなあ。せっかくここまで来たのに)

せっかくいろんな人の思いを背負って、所長ともまた会えて、人ですらなくなって、頑張って来たのにな。

これが走馬灯というのだろうか、今までに巡り見た人や物や場所が浮かんでは消えてゆく。

楽しかったもの、辛かったもの、笑い飛ばせるようなもの、できれば思い出したくないもの。

「…おかしな夢だったね、マシュ」

そう、夢。すべて、長い夜の夢のようなものだった。

夜が明け、夢が終わる。そうして俺の元に残るのは……

 

いつかの境界の狭間に見た、あの人の影。

『また会えることがあったら、その時は、どうか私の名前を口にしてね?』

…確か、そう言っていた。会おうと会えまいと、どうせもうすぐ死んでゆくのだ、最後にその名を口にしたっていいだろう。

 

 

 

20/06/01()23:57:45No.695500207

「『 』」

 

確かに俺がはっきり覚えているはずのその人の名前が、なぜか空虚に聞こえる。

それとも、もうまとも言葉を発することもできなくなってしまったのだろうか。

「…やっぱ、ダメ、かなあ…」

間際に見えることも諦めかけたその時、懐かしい声が聞こえた。

『いいえ、立香さん。確かに、届いたわ』

「あ…」

俺の身体を蝕んでいた冷たさが消えていき、心地よい暖かさが辺りを包む。

血で濡れていたはずの床も、無表情に俺を見下ろしていた空も、全てが白い。

そして、そんな温かな白さの中に、彼女がいた。初めて遭った時と同じ姿。

彼女が長い黒髪を地面に垂らし、倒れた俺の側に跪く。

 

 

 

20/06/01()23:58:02No.695500294

『…ねえ、立香さん。あなたの望みは何?』

 

どうして今になってこんなことを聞くのか、少し疑問に思いつつ。

まともに頭が回らないまま、俺は素直に望みを口にした。口にしてしまった。

 

「…この世界を救いたかった。救った世界で、生きていたかった…ああ、それと」

 

少しの躊躇い。けれど、もうこの際口にしてしまってもいいだろう。俺は精一杯の力で首を回して彼女に向き直り、

 

「…もっと、あなたと一緒にいたかった」

 

 

 

20/06/01()23:58:23No.695500389

…すっと、胸が楽になった気がする。そう言えば、自分の本音を誰かに打ち明けたことなんて久しくなかった。

けれど、こんなことになるまで、立ち止まって自分の望みをよく考えたことすらなかったんだ。だから、死ぬ間際くらい、いいじゃないか。

半ば自棄のような言い訳を自分の中で並び立てながら、俺は言いたいことを言った。

 

どうせ言ったところで何がどうなるわけでもない。こんな俺でも、最後に看取ってくれる人がいる。それだけで上等だ。

俺は目を瞑り、その時を待った。 

……けれど、待てども聞こえてくるのは『両儀式』の微かな笑い声だけだ。

 

 

 

20/06/01()23:58:49No.695500549

「…あれ?」

何かがおかしい。 身体が動く。意識が戻ってくる。胸が楽になったのは本音を言ったからじゃない。

傷がなくなっているからだ。 身体についた傷も、血で染められ、破損した礼装すらも元に戻っている。

 

『…おかしな夢だったわね、立香さん』

「…式さん?」

 

『治された』心臓が、早速高鳴る。 もしかして俺は、何かとんでもない間違いをしてしまったんじゃないだろうか?

「…それじゃあ、行きましょうか」

両儀式が手を伸ばして俺を引き上げようとする。

俺は治った身体で自力で起き上がり、

 

 

 

20/06/01()23:59:03No.695500622

「あの、治してくれて、本当にありがとうございます、式さん。だけど俺、戻らないと」

『…?戻る?どこへ?』

「どこへ…って、マシュたちのところです。俺がいないと…!」

焦る俺を諭すように『両儀式』が俺の両肩に手を置いて、

「残念だけれど、立香さん。 もうあの場所へは戻れない。 夢は終わってしまったの。ほら、周りをよく見て」

彼女の言うがままに辺りを見回すと、そこはいつの間にか俺が良く知っている街並みで、老若男女がせわしなく行き交う、見慣れた光景が広がっている。

「……」

絶句する俺をよそに、

『もうあなたはマスターではない。救うべき世界も、滅ぼすべき世界もない。 背負っていくべき呪詛も希望もない。 もう、あなたはこれ以上死ななくていいの』

『両儀式』が震える俺の手を取り、

『さ、行きましょう?』

 

 

 

20/06/01()23:59:41No.695500821

にっこりと微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、様々な感情が俺の胸に去来し。

俺は、力なく笑った。

そして、『両儀式』の手に引かれるまま、俺は歩き出す。

泣いても笑っても、怒っても叱っても諭しても、何をしても無駄だという確信があった。

もう、夢は終わってしまったのだから。 俺はこれから先ずっと、願いを叶えた代償を払い続けなければいけない。

 

 

 

20/06/02()00:00:21No.695501063

『両儀式』さんの前で死にたかったけど死なせてもらえないマスター怪文書です

 

 

 

20/06/02()00:07:02No.695503522

死に際に聞いてくるのズルすぎる…

 

 

 

20/06/02()00:10:00No.695504791

「」さんにお願いして助けてくれたからね

「」さんのお願いは聞かなきゃダメだよね!

 

 

 

20/06/02()00:12:44No.695505948

あの…ぐだの死後を心待ちにしていた皆さんは…

 

 

 

20/06/02()00:13:30No.695506244

そんなもんは最初からいねぇんだ

 

 

 

20/06/02()00:16:22No.695507195

>あの…ぐだの死後を心待ちにしていた皆さんは…

死にたくないって言ったのはぐだ自身ですよ?

 

 

 

20/06/02()00:15:41No.695506979

すべて、長い夜の夢だったよ……

 

 

 

20/06/02()00:18:05No.695507867

世界を救ったよ!おめでとう!

 

 

 

20/06/02()00:19:13No.695508318

チートやめろ!やめてください!

 

 

 

20/06/02()00:24:24No.695510278

普通の人間の死の間際なんてそういうものなんですよ…どうして…

 

 

 

20/06/02()00:27:19No.695511468

>普通の人間の死の間際なんてそういうものなんですよ…どうして…

でもぐだが死んだら世界も終わってしまうんだぜ?

ぐだは生きてるし世界も救われたよ!良かったね!

 

 

 

20/06/02()00:24:46No.695510425

記憶を改ざんしたり消したりしないあたりまだ有情と言える…かも

 

 

 

20/06/02()00:28:55No.695512126

30分かけて振られたから

今度は絶対に逃してくれないのだ

 

 

 

20/06/02()00:29:20No.695512300

つまり…どう言う事だってばよ

 

 

 

20/06/02()00:32:27No.695513511

>つまり…どう言う事だってばよ

世界は救われました

ぐだ男は救った世界で生きていくことになりました

ハッピーエンド

 

 

 

20/06/02()00:36:20No.695515096

ぐだならここからでも諦めずに元の世界に戻る方法探しそう

そんなものないのになーって思いつついじらしいから「 」さんもそんな頑張るぐだを眺めてそう

 

 

 

20/06/02()00:37:55No.695515798

これを断れるのは自分を普通と信じる異常者だけだからな

 

 

 

20/06/02()00:38:25No.695516005

死ぬ直前はズルいのだわ…

 

 

 

20/06/02()00:44:00No.695518111

英霊召喚も魔術師もない世界なんだよね

 

 

 

20/06/02()00:47:16No.695519249

結局この世界も魔術王の燃料にされるだけだから否が応でも戻れるぜ

 

 

 

20/06/02()00:50:54No.695520513

>結局この世界も魔術王の燃料にされるだけだから否が応でも戻れるぜ

人理焼却はレフが覚醒しないだけで頓挫するから「レフが覚醒しなかった世界」で塗り潰すだけでいい

ブリテン救済のために人理定礎破壊する必要があるゾン姉と違って今をいじくるだけでいいからめっちゃ余裕

 

 

 

20/06/02()00:51:04No.695520562

剣式さんは文字通りの意味で見えない懐刀ってイメージがあるよね・・・

ただ、彼女の在り方からして極力その力にたよってはいけない、ってイメージも強いけど(頼った時点でぐだの中で大切な何かが確実に終わる意味で