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20/02/28()23:42:30No.666984506

 以前上げた「」ルジュナ怪文書です

 

大体死ぬか生き別れます


「」シュ怪文書を受けた「」ルジュナ怪文書です

受肉を願った聖杯が泥塗れでどっちか死ぬか離れ離れになるやつです

曇らせいいよね…

 

『君は、この聖杯に何を望む?』

あの人が握る黄金の杯。それは本当に手に入れてしまった聖杯だった。魔力リソースという意味合いではない、本物の万能の願望具。

あなたは、何を望むのですマスター。手に入れたのはあなただ。だから本当に願うべきはあなただ。

『それはアルジュナの願い事を聞いてから。……やっぱり、永遠の孤独?』

御冗談を。私は笑った。その願いは過去の私が確かに持っていたもの。けれどマスターと共に旅を続けるにつれ、私の心には変化が生まれた。

私は……最後まであなたと共にありたい。共に同じ時間を過ごしたい。

『なんだ、同じだね』

あの人は笑う。とても眩くて、思わず目を細める。

『君と一緒に生きていきたい。我儘だけど、君に人として生きてほしい』

はい、マスター。

『一緒にだらだらしたり、無駄な事したりしてさ。日々を面白おかしく過ごそうよ』

怠惰も、無駄も悪だ。そう分かりきっているのに、私は幸福に綻ぶ唇を抑えられなかった。

ええそうしましょう。マスター。……いえXX

名を呼べばあの人はくすぐったそうに笑う。そうして、ふたり。手と手を取り合って、最期まで一緒に生きていけると信じていた。

 

全ては一瞬で灰燼になった。不慮の事故。燃える機体に包まれて、ただの人間になった私はあの人と共に死ねるはずだった。

『どうして』

ただ一人の生き残りが居たと、連絡があったのだろう。鬼気迫る表情の少女はぼろぼろの私の顔をまじまじと見上げた。

『どうして、あなたが生きているのですか。アルジュナさん』

ひび割れた唇を動かすのはとても億劫だった。

マシュ・キリエライト、私の二つ名を覚えておいでですか。授かりの英雄。呪いのように神に愛される者。どうやら神々は私が英雄ではなくとも恩寵を授けて下さるようだ。

『なぜ、マスターは助からなかったのですか。あなたという者がありながら』

私は、既にサーヴァントではない。あの人も同様にマスターではなく。ただの、無力なふたりだったのです。ですから。

淡々と事実を吐き出したと同時に、頬に平手が飛んできた。怒り、動揺、絶望、諦観。そこにやるせなさを混ぜた複雑な顔をした彼女。とても人間らしい表情。

『どうして』

瞳から涙を零しながら、小さな拳を私の胸に叩きつける。どうしようもなく軽い衝撃で、だからこそ深く胸を穿つ。

『どうして! どうしてあの人が死なないといけないんですか!』

 

子供のように泣き叫ぶ彼女は、私の胸に縋っていた。肩に手を置き慰めるべきかを迷って、私は何もしなかった。

この暴力は八つ当たりでしかないと彼女も分かっているはずだ。それでも、怒りがなければ。当たり散らす相手がなければきっと立ってさえいられないのだろう。乗客全員と、あの人の命を代償におめおめ生き残った私を、彼女が許せるはずもない。

残酷な運命だと。それは仕方ないことだと、どうしようもないことだと分かっていても。

だからせめて壊れかけた彼女の心を救う為に、私は望まれた役を演じることにした。

私を恨むがいい、マシュ・キリエライト。あなたの大切な人の隣を奪い、その生命を守れなかった私を。

伏せられていた顔がゆっくりと上がる。見開いた目に既に光はない。幾筋も涙が伝った頬が、強張った。

『ええ、そうします。アルジュナさん。私はあなたを絶対に許さない』

噛み締めすぎて血の滲んだ唇から、煮立つ汚泥のような呪詛の言葉を紡ぐ。

『たとえ世界が、神があなたを愛そうと。私は、私だけはあなたを憎み続けます』

それでいい。そうしなさい。今は憎しみだけがあなたの支えとなるだろうから。

 

あの人の僅かな遺品は全てカルデア側に引き渡した。惜しみなく手放した。……ただ一つのものを除いて。

病室のベッドの上でそれをじっと眺めていた。なめらかな白。あの人が私に遺してくれたもの。二度と手放すまいと繋ぎ続けていた、指の骨。そっと唇で触れる。冷たくて、硬い。

飴のように、口の中に放り込む。ころころ。舌の上で転がしてみる。微かな血錆の味。

声だけが、蘇る。

『君と一緒に生きていきたい。我儘だけど、君に人として生きてほしい』

はい、マスター。もうあなたはいないけれど。生きてほしいと、願われたのだから。私は生き続けましょう。

『一緒にだらだらしたり、無駄な事したりしてさ。日々を面白おかしく過ごそうよ』

はい、マスター。もうあなたは死んでしまったけれど。私の中で一つになって、共に人として歩みましょう。

一気に飲み干した。あの人の遺骨が喉を、食道をちりちりと傷付けゆっくり胃へ落ちていく。耐え難い痛み、苦しみ、喪失感の中で、私は嗤う。

この痛みも、苦しみも、虚しさも。全部俺一人だけのものだ。誰にだって、座の本体にだってこれを手渡してやるものか!

笑って、哂って。笑い続けて。それからようやく、自分の頬に涙が滑り落ちていることに気付いた。

 

アルジュナエンド1-A 人として、共に

 

目を開けた時にカルデアのマスターが見た風景は、拍子抜けするほどに美しい星空だった。墜落を知らせるブザー音も、心臓を鷲掴むような轟音も、死を身近に感じさせる機体の揺れもなく、硬い地面の感触が背中にある。

試しに腕を動かしてみる。激痛が走ったが、動いた。本当に生きてる。助かったのだ。あの事故から。安堵したのも束の間、彼の姿が見えないことにはっとする。

共に生きようと。人として一緒に生きてほしいと聖杯に望み、受肉した彼。アルジュナ。

『ま、すたー』

すぐ傍、正確に言えば胸の辺りから声がした。ああ、アルジュナ無事で――そう言いかけて息を呑む。何かから庇い、覆いかぶさった彼。その背中を大きな残骸が貫いていた。

『早く、にげて、下さい』

もう、あまり持ちません。端正な顔を苦痛に歪めた男は耐え切れなかったのか、ごぽりと黒い血の塊を吐き出した。粘っこいそれは胸元を汚し、命の熱と共に服に沁み込んでいく。

目の前の光景が信じられない。あのアルジュナが、死にかけている。だって彼がこんな惨い目に合うはずもない。授かりの英雄。神に愛される者。数多の苦難は君の前でだけ祝福となるのではなかったのか。

『お願いです、マスター』

再度の悲痛な声に我に返った。千切れそうな手足の痛みを無視して、彼の身体の下から必死に這い出す。酷い有様だった。背中だけではなく腰から下も機体の残骸が無残に押し潰していて、ああ、これは助からないな。頭のどこか、冷静な部分がそう囁いた。

 

アルジュナ。震える声で名前を呼ぶと、彼は安心したように口角を上げて、ぐしゃりと崩れ落ちた。伸し掛かる大きな鉄塊。……重みに彼はどれほど長く耐え続けていたのだろう。堰を切ったようにとめどなく口から血を吐き続ける彼の瞳はどこか虚ろで、たまらなくなった。

アルジュナ。

『マスター……ああ、 よか、った』

できることはない。カルデアの礼装の力を借りなければ、自分は簡易な治療用魔術を使うことすらままならない。医療の知識もない。痛みを取り除くこともできない。ただの人間が死にゆく彼にできることはただ一つ。

手を握ること。押し潰されまいと、地面に爪立てもがき続けていたであろう掌は血塗れで、最期まで守ろうとしてくれた彼の意思に勝手に涙が溢れてきた。

『申し訳、ありませ、……私は……あなた、を私……』

もういい。喋らないでいい。

ぎゅうっと手を握りしめる。お返しのように握り返される。それを手遊びのように繰り返す。少しずつ、アルジュナの指先が冷えて、握る力が弱くなってくる。嫌だ、まだ連れていかないで。

祈りを捧ぐように一層強く握った。後悔が滲む。ああ、自分が受肉なんて、望まなければよかったのに。そうしたら彼はこんな酷い目には合わなかったし、こんな風に苦痛に塗れて死にゆくこともなかったのに。

『マスター』

呼ばれて、顔を上げる。彼は。身体がぐしゃぐしゃになって、痛くて辛くて苦しくて堪らないはずの彼は。信じられないほど清冽な笑みを浮かべていた。

 

『私が願ったの、です……あなた、と共に。 ひと として、歩みたい、と』

でも、アルジュナ。こんな終わり方はないよ。君は世界の全てから愛される存在なのに。だからもっともっと幸せになれたはずなのに。

『いいえ。私は……幸せ、です。あなたを、守り。あなたの、傍で 死ぬことが、できる』

そんなの嫌だ! もっとアルジュナと一緒に居たい! ずっと君と一緒に普通で平凡でつまらない人生を送りたい!

……叫びながら、もう叶わないことだと諦めている自分がいた。

彼の水っぽい喘鳴は深く、途切れ途切れになっていく。もう明瞭に意識を保つことも難しいのかもしれない。がくがくと大きく震えだす身体。

『っ……マスター』

うん。

『わ……す、 で。……ぁ、 い……て』

それが、最期の言葉。はあ、と大きな吐息と共にすべての力が抜けていく。ずるり。滑り落ちそうになる手を離すまいと両手で掴んで、うわごとのように言い聞かせる。

――大丈夫だよアルジュナ。きっとすぐに助けが来てくれるし、カルデアの医療技術って凄いからさ。死にそうな傷だって意外に治るよ。もしかしたら足は駄目かもしれないけど、その時はしょうがない。今はいい義足があるし。それに義足の君だってとても素敵だと思う。車椅子でもいいんだよ。君の傍で、どこまでだって連れていくから。リハビリはきっと大変だろうけど、自分も手伝う。そこはそれ、君をこんな傷物にした責任ってやつだ。君の元マスターとして当然付き合う。だから大丈夫。なにも心配しないでいいんだ。

 

ねえ。

アルジュナ?

 

アルジュナエンド1-B 残す傷と呪いと

 

『これからマスターの元へ向かうのですか?』

そう声を掛けてきたのは私とよく似た顔をした男だった。異聞帯での私。どこかで選択を違えた彼は、感情の読めない漆黒の瞳で私を見ていた。

ええそうです。異なる私。聖杯が手に入ったから見せたいと、呼び出されたので。

『やはりそうですか』

やはり、とは?

『ご存知でしょう、真なる私。私の視界は人のそれではない。視えなくてもいい未来まで見てしまう。ですから、これからあなたが選ぶ未来も同様に分かるのです』

うっすら浮かんだ笑みに心の内を見透かされたよう。もし、あの人に願いはなにかと問われれば、私は確実に答える気でいた。いつまでもマスター、あなたの傍にと。

『すみません。干渉する気はありませんよ。選択は自由、けれどあなたが選ぶ先にあまりにも不幸と苦難が多く視えたから』

それは、どういうことだ。尋ねるより先に異なる私の掌がそっと視界を覆う。

『どうか、アルジュナ。あなたが望む先より目を背けないで』

暗闇の中で光が躍る。無数の枝を辿る平行世界、選んだ先と選ばなかった先。そして私が初めて心から望んだ未来に広がるのはただひたすらに残酷な光景で――。

 

『君は、この聖杯に何を望む?』

弾けるようなあの人の笑顔。手にするのは黄金の杯。あらゆる願望を汲み上げ叶える万能の願望具。その問いかけを何度も耳にしたような、不思議な気分になりながら私は微笑んだ。

マスター。あなたと共にありたい。あなたと同じ時を過ごしたい。それは偽りない願いだ。十全に叶うのであれば何度でも私は願うでしょう。

けれど、私は視てしまった。あなたの手を取った先。誰もが不幸の底へと陥る、逃れ得ぬ死の結末を。

裏切りを許して下さい、マスター。私は……あなたを喪うことがこれほど恐ろしいことだとは思わなかったのです。

『どうしたの、アルジュナ……やっぱり永遠の孤独、とか?』

冗談めかしてあの人は笑う。きっと私が否定すると信じて。それでも何も言おうとしない私に、あの人の声が少し震えだす。

『アルジュナ……?』

ええ、その通りです。マスター。私は永遠の孤独を、望みます。

『何……言って』

引き攣った笑みが、眩い光に染まって見えなくなる。起動した聖杯の輝きに呑まれ、私の身体は光の粒子になって指先から崩れていく。

 

お別れですね、マスター。あなたのサーヴァントとして過ごした日々は、多少なりとも楽しめるものではありました。

『どうして……どうして!』

魂を引き裂く叫びを上げながら、あの人が駆け寄ってくる。胸倉を掴もうとしたのか、伸びた手は身体をすり抜けて向こう側へ。もう戻れないと気付いてあの人の顔が絶望に歪む。

『一緒に居てくれるって言ったじゃないか! ずっと一緒に生きようって約束したじゃないか!』

そうですね、マスター。ああでもそれを摂理はけして許してくれないのです。あなたが手にした聖杯は、底意地の悪い呪いに侵されていて。どんなに無垢な願いであれ、いずれあなたから残忍に対価を奪う。

ですから、全ての呪いを我が身へ注ぎましょう。あなたとの約束を違えることは心痛みますが、それであなたの未来を守ることができるならば、私にとってこれ以上望むことなどない。

『駄目だ、いやだ、嫌だ、やだよアルジュナ、お願いだから行かないで……一人にしないで!』

さようなら。親愛なる私のマスター。あなたの道行きにどうか数多の幸運がありますように。

『アルジュナぁぁあああっ!』

世界が崩れていく。完全な闇に閉ざされるその最後の一瞬、私はきっと穏やかに笑えていたのだと思う。誰にも見せたくないと思っていた、ただの人としての笑みを。

 

目を、開く。無限の無明。これが永遠の孤独。かつての私が求め願い、あの人と出会って捨てた夢。一筋の光も差さない闇の底。成程。これならば誰も私を顧みることはない。

そう分かって、胸の中に芽生えるのは幸福ではなく虚無。私は既に寂しさの色を知ってしまった。だからここは永劫に続く監獄。私を蝕み続ける呪いの檻。

目を、閉じる。変わりないはずの漆黒の中に、小さな灯が見える。それは目蓋の裏に広がる幻。私の心に根付いたあの人の焔。届かないはずの光を伸ばして、ともすれば暗闇に溶け消えてしまいそうな私の姿形を浮かび上がらせる。

まるでそれは、どんな状況でもけして諦めず足掻くあの人のような。

……ああ、この光がここにある限り。私は永遠も永劫も、微笑んで耐えることができる。

 

アルジュナエンド0 えいえんなど すこしもほしくはない

 

 

 


  

『アルジュナ、アルジュナねえどうしよう、どうしたらいいの』

向こう側で、あの人の酷く動揺した声がする。息は荒く呼吸は乱れて、時折嗚咽も漏れてくる。泣いているのだろうか。

ああ、どうか落ち着いて。一体どうしたというのですか。

『死んだって』

……え。

『あの人、あの人が。死んだって。事故、ってねえどうして、私どうしたらいいの分からない、分からないよアルジュナぁあ……』

言葉の後半は、もう意味をなさない泣き声だった。恐らくはその場で崩れ落ち号泣しているであろうマスターに、掛ける言葉が見つからずに立ち尽くす。

禍福は糾える縄の如く。しかし誰が結婚わずか半年で、あの幸福な家庭があっけなくも無残に引き裂かれると思うだろう。

――ふと、嫌な予感がした。もしも仮に、受肉を果たした私の身体にも、まだ神々の恩寵が授けられているとして。その気紛れな矛先が、私が愚かにも恋をしてしまったマスターに、向けられたのだとしたら。

ならばあの人がやっとの思いで掴んだ幸せを壊してしまったのは、他ならぬ私なのではないのか。

『どうして』

それは私の罪を問う、あの人の声。

『ねえ、どうして! おねがい、教えて……』

 

今もまだ、あの人と連絡を取り続けているのも、本当は憚られることなのかもしれない。それでもまるで縋るように名を呼ばれることに、仄暗い喜びを抱いてしまう自分が居たのも、忌まわしいことではあるが事実だった。

少しずつ、話す時間が増えていく。降り積もる罪の意識も同様に。

マスター。私はあなたから、一番大切な人を奪ってしまったのかもしれない。それなのに。あなたから今、こうして必要とされることに無上の幸福を感じてしまっている。

そんな愚かで救い難い男なのです。叶うならあなたに罰してほしい。全てを喪ったのは全部お前のせいだと弾劾された方が、どれほど心安らぐか。

『ねえアルジュナ』

葬儀から数か月後。あの人の声は相変わらず疲れ切って掠れていた。

『また、さ。こっちに来ない?』

私の気持ちを知ってか知らずか、拠り所を求め甘える声色にどす黒い衝動が押し寄せてくる。どうにか平静を装って、淡々とした返事をした。

そうですね。またいつか。

分かっている。逢うべきではない。少なくともこの醜い恋を抱いたままでは。逢ってしまったら、あの人の生に疲れた微笑みを見てしまったなら。私はこの感情を全て曝け出してあの人を深く傷つけてしまう。

そう、分かっていながら。私の唇は抑えきれない笑みに歪んでいた。堕ちていくのだとしたら、いっそ泥濘の底まで。

もう私は迷わない。それが例え人倫に悖る行為であろうとも、きっとあなたの手を取ってみせる。

 

教えて貰った住所は閑静な住宅街。学校も近かった。二人は、これから生まれるであろう子供のことも考えて、ここを選んだのだろうか。永遠に失われた幸福な未来を思うと、胸が酷く苦しくなる。

もしも罪の意識だとしたらお笑いぐさだ。例え無意識だとしても、この状況となったのは神々からの祝福を授かった自分のせいだろうに。

宵闇の道をまばらに街灯が照らしていた。もう夜も遅いせいか、行き交う人も少ない。こんなところに居る姿を見られても、悪目立ちするだけだろうから好都合だった。

開けた公園の向こうに、真新しい集合住宅が見えた。あれが、あの人の住処。愛した人を喪い、たった一人で過ごす家。一刻も早く、あの人に会いたい。そう思って歩みを早める私の耳に。

――きぃ。

微かに金属の擦れる音が聞こえてきた。ふと公園に目を向ける。片隅に忘れられたように置かれたブランコに、誰かがうずくまるように座っていた。

その姿を、見違えるはずもない。

マスター。

『……ああ、見つかっちゃったか』

 

顔を伏せたままであの人が笑った。まるで悪戯を見咎められた子供のように。

どうして、外に居るのですか。

『家の中さ、まだ引っ越したばっかりで片付いてないし。……それに、色々。思い出しちゃって』

きぃ、きぃ。ブランコが揺れる。鎖をしっかりと握るあの人の左手、薬指。深まる夜闇の中でさえ、銀の指輪は光って見えた。

その光を覆い隠すように、掌を重ねる。びくりとあの人の肩が震えた。それは寒さからではなく、不安と怯え。

あなたはもうこの手の熱の意味に気付かぬほど子供ではない。そして全てに素知らぬふりができるほど大人でもない。

……中へ入りましょう、マスター。ここは、暗くて寒い。

きっともうすぐあなたは顔を上げる。私はあなたの顔を見てしまう。そうしたら、ふたりはもう戻れない。あの美しい親愛の関係から遠く離れてしまう。

私は、それでも構わなかった。

『……アルジュナ』

歪んだ愛を咎めるように、掌で硬く触れる指輪の感触。それはいつまでもいつまでも、冷たく残り続けていた。………

……

 

あの人の生の終末は、ほかの人間より少し早く訪れた。思えばいつ命を狙われてもおかしくない状況で、むしろ良くここまで長く生きたと褒めるべきだったのかもしれない。

悲しむ必要はないと、すでに知っている。死は平等に訪れる物だ。それが明日か十年後かは誰も知らないし、余命を宣告されてるだけ自分はましな方じゃないかな、とはあの人の言葉。なんて楽天的な人だろう。

私はあの人の最期を看取ることができた。そっと手を握りながら。モルヒネの麻酔の幻に、幸福な微睡みに意識を埋めていくあの人の耳元でそっと囁くことができた。

マスター。あなたと出会えて、本当に良かった。共に生きていくことができて、本当に良かった。

……わずかにあの人が微笑んだように見えたのは、気のせいではないと思う。

 

そうして今、あの人の身体は白木の棺の中にすっかり収められている。周囲を飾るのは鮮やかな花。友人からの手紙や思い出の写真。

この国では遺体は荼毘に伏す決まりらしい。もう少しで見納めになると、私はあの人の顔を覗き込んだ。

穏やかな表情。まるで眠っているかのような。

その目蓋にそっと唇を落とす。これ以上は行うべきではない。少し躊躇って、それでも想いを乗せてあの人の唇に口付けた。皮膚は既に冷え切っていて、硬い陶器のような感触を私に残す。

……あなたを、愛しています。

抑えきれない感情が喉を震わせる。それはあの人が生きている間、けして口にしてはいけなかった言葉。親子でも兄弟でも、恋人でもない居心地の良い関係を壊さないために、見えないふりをし続けていた想い。

愛しています、マスター。どうか、どうか良い夢を。

 

アルジュナハッピーエンド これまでの永き旅路の、果てに

 

 

この前の物と今回のも含めた「」ルジュナ怪文書です

 

団地妻未亡人ヒトヅマスターに手を出すエンドと今回の話の後日談が入っています

 

 

 

間に合えばもう一つ上げたいです

 

 

 

 

 

 

 

20/02/28()23:43:33No.666984864+

 

>団地妻未亡人ヒトヅマスターに手を出すエンドと今回の話の後日談が入っています

 

!?


 

 

20/02/28()23:44:06No.666985059

 

>団地妻未亡人ヒトヅマスターに手を出すエンドと今回の話の後日談が入っています

 

待てよ!?

 

 

 

 

 

 

 

20/02/28()23:44:15No.666985110

 

>団地妻未亡人ヒトヅマスターに手を出すエンド

 

ヒリとお父さん野郎が喜びそうなエンドが…

 

 

 

 

 

 

 

20/02/28()23:48:29No.666986614

 

おまえなー!そうやってなー!感情を上下に揺さぶるような後出しをなー!!

 

 

20/02/28()23:44:36No.666985224

 

私は嬉しい…ヒトヅマスター怪文書が読めるなんて…

 




20/02/28(
)23:50:20No.666987258

>…あなたを、愛しています。

>抑えきれない感情が喉を震わせる。それはあの人が生きている間、けして口にしてはいけなかった言葉。

そこまで連れ添ったんなら言えよ!!

 

 

 



20/02/28(
)23:53:29No.666988283

>間に合えばもう一つ上げたいです

今までのはハッピーエンド…

もしかしてちゃんと踏み込めたトゥルーエンドがあるのでは?

 

 

 

20/02/28()23:53:49No.666988406

ヒトヅマスターものは少し前まで旦那さんと寝ていたベッドにあの話の後踏み込むと思うとワクワクが止まりません…

 

 

 

20/02/28()23:56:26No.666989281

>ヒトヅマスターものの方がやることやってそう…

あのような状況だと恋とか愛とかの前に快楽に依存してしまうのが定番っちゃ定番だし…

 

 

 

20/02/28()23:56:26No.666989288

>ヒトヅマスターものの方がやることやってそう…

開き直って黒全開になってるしな

 

 

 

20/02/28()23:54:19No.666988578

よし読んでたらやる気出てきた自分のも続き書こ

 

 

 

20/02/28()23:54:43No.666988695

怪文書はいくらでも増やして良い

 

 

 

20/02/28()23:58:23No.666989998

ヒトヅマスター完全にAVみたいな展開になりそうなんじゃが?

 

 

 

20/02/28()23:59:14No.666990333

>ヒトヅマスター完全にAVみたいな展開になりそうなんじゃが?

一部円卓の騎士にバカ受け間違いなし

 

 

 

20/02/28()23:59:45No.666990482

>>ヒトヅマスター完全にAVみたいな展開になりそうなんじゃが?

>一部円卓の騎士にバカ受け間違いなし

円卓の騎士のAVレビュアーズが始まってしまう

 

 

 

20/02/29()00:02:02No.666991347

望みを隠すと思い通りにならんなら多少欲望駄々洩れ程度のがちょうどいいのだろうか

 

 

 

20/02/29()00:06:13No.666992698

のうのう!亡くなった旦那への思いを消せずにいるからアルジュナに抱かれてる間必死に声我慢してるヒトヅマスターもいいと思うのじゃが!

 

 

 

20/02/29()00:09:41No.666993824

>のうのう!亡くなった旦那への思いを消せずにいるからアルジュナに抱かれてる間必死に声我慢してるヒトヅマスターもいいと思うのじゃが!

消えよ穀潰しのワシ!!

 

 

 

20/02/29()00:09:43No.666993839

>のうのう!亡くなった旦那への思いを消せずにいるからアルジュナに抱かれてる間必死に声我慢してるヒトヅマスターもいいと思うのじゃが!

でも急に激しくされて無理矢理声を上げさせられてしまうんだろう?わかるとも!

 

 

 

20/02/29()00:10:46No.666994198

>亡くなった旦那が今どき珍しいくらい貞操観念しっかりした優しい人で初体験は結婚してからにしようって約束してたから実はマスターはまだ処女だったとかでもいい

処女な未亡人、いいと思います

通夜の席での久々の再会、ぎごちない会話

ちょっとしたすれ違いから売り言葉に買い言葉で圧し殺していた恋情と嫉妬が爆発、激情のまま手籠めにしたら

反応が妙に物慣れないし後始末したら血みどろになってるし

焦って病院に連れて行こうとすると

「大丈夫だから、はじめてだから血が出るのは当たり前だから」

と言われて呆然とするんだ

 

 

 

20/02/29()00:10:46No.666994203

俺はそういうのどうかと思うぜ大殿

 

 

 

20/02/29()00:26:15No.666999384

>俺はそういうのどうかと思うぜ大殿

森くんはほんとこういう時だけはまともだな…

 

 

 

20/02/29()00:12:05No.666994686

まじでAVか薄い本みたいな展開になってる…

 

 

 

20/02/29()00:13:04No.666995058

むっ!身体は何をされてもいいけど口づけだけは嫌がるマスター!

 

 

 

20/02/29()00:13:20No.666995157

>まじでAVか薄い本みたいな展開になってる…

まさかアルジュナでこのような展開になろうとは…

散々童貞っぽいだのなんだの言われてたのに

 

 

 

20/02/29()00:14:44No.666995639

インド人がエロじゃないわけないのじゃが

 

 

 

20/02/29()00:16:57No.666996368

『手順3:あなたの目の前には豊かな双丘と、魅惑の奥へと誘うクレヴァスが広がっているはずだ。君はそのどちらかに手を伸ばしてもいいし、どちらも手に入れてもいい』……なんか急に散文詩始まったな。ねえアルジュナこれどういう意味……あとで教えます? 分かったじゃあ次ね次。

なにこれエロじゃん!