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2019/04/09 12:29:50 No.582402630

 

眠れない。
私の眠りが浅いというだけではない。いつもなら必ず私より先に寝てしまう彼も、今日ばかりは落ち着きなく布団の中でもぞもぞと動いている。
それも仕方ないのかもしれない。彼も私も、こんなことをした経験なんかない。なぜなら、明日は---
私たちの結婚式、なのだから---

 

 

 

 2019/04/09 12:30:15 No.582402708

初めは、ただ目的のために打倒すべき敵だとしか思っていなかった。私の片割れを捩じ伏せた、私の糧になるためだけの餌なのだと。
次に会ったときには、怒りを通り越して呆れが来た。仮にも自分を二度も半死半生の窮地に追いやり、カルデアを殆ど壊滅状態にまで追い込んだ人類悪の一つを、なんのためらいもなく受け入れるなんて。もちろん私は、彼を困らせようとあらゆる手を使った。けれど彼は、そんな私を嫌うことも見下すこともなく、懲りもせずに私に接してきた。その頃になると、もう私も突っ張ることに疲れてしまっていたのか、彼にこう漏らすようになっていた。
「なら、あなたが私に愛を教えてくださいよ。こんな私に、愛の素晴らしさなんてものを思い出させられるなら、そのときは---」

 

 

 

2019/04/09 12:31:10 No.582402887

彼と旅をしているとき、一度だけ彼が私に顔を合わせてくれなかったことがあった。インドの異聞帯を攻略していたときだ。
異聞帯を攻略するということは、そこに生きていた者を人も神も区別なく、その歴史ごと排除するということ。何の罪もない、ただ日々の暮らしを静かに営んでいる人々を、自分たちの生存のために消し去るという行為に、彼の心は確実に軋みを上げていた。
これはチャンスだ。彼の毒気にあてられてらしくもないことばかりしていたが、ようやく人を堕落させる愛の神に戻る時が来た。そう思った私は、彼が独りになったときを見計らって、彼のテントに入っていった。

 

 

 

2019/04/09 12:32:01 No.582403052

「マスターさん、ちょっといいですかぁ?」
とびきり甘い声を出して、彼を呼び止める。すると彼は、まるでずっと怖れていたものを見たかのような怯えた表情を浮かべて、私の方に振り返った。
尋常ではない彼の反応に、さすがの私も何があったのかと疑問を覚えた。
「どうしたんですか、いったい。いまさら私のことが怖くなったんですか」
「そんなことないよ。ただ、敵がいつ来るかわからないから、少し敏感になっているかもしれないっていうだけ。ごめんね」
「下手な嘘をつかないでください。私が声をかけたとわかったから、あなたはそんなに怖がっているんでしょう?」
顔を伏せた彼は、少しの間何も言わなかった。しかししばらくたって、彼は今まで見たこともないような重苦しい表情でこう切り出した。

 

 

 

2019/04/09 12:32:30 No.582403158

「俺、聞いちゃったんだ。スカディさんがゲルダの名前を呼んで、独りで泣いてるところを---」
空気が凍りつく。かつて異聞帯を統治していたという女神スカディ。彼女には、まだ異聞帯の王であったときの記憶があるのだ---
「スカディさんも始皇帝も他のみんなも、自分たちの結末に納得してこの戦いに挑んでいることはわかってる。けど、みんなの居場所を壊したのはやっぱり俺だ--」
声がどんどんか細くなっていく。彼はもうほとんど泣いていた。
「戦いに勝たないと、俺たちの歴史は戻ってこない。でも戦いに勝つってことは、相手の歴史も滅ぼすってことだ…
もう、どうしたらいいかわからないんだ…!勝っても負けても、罪もない人が絶対に死ぬ…!この戦いが終わったら、きっと、カーマの、家族も……!」

 

 

 

2019/04/09 12:33:23 No.582403348

嗚咽だけが、暗い部屋に響いていた。
わかっていたことだ。異なる分岐を辿ったとはいえ、きっとこの世界には転生した私の妻と子がいるに違いない。
私の家族。身体を取り戻し、愛を思い出した私の結末。今の私には手の届かない、輝かしい私の可能性---
きっとそれは素晴らしいのだろう。それに手を伸ばせるなら、私の知らない私になれるのなら、それはきっと幸せなのだろう。けれど---
「そんなことで悩んでたんですかぁ?あなたらしいちっぽけな悩み事ですね」
「えっ…!?」
「何かを手に入れるということは、他の何かを犠牲にするということ。あなたがあなたの使命を全うしようとする限り、その摂理からは決して逃れられない。
迷いがあるなら、そのときは私に言ってください。あなたが戦えなくなって、みんな一緒にやられるのは御免ですから。私はここをあの世界にくれてやる気なんて、さらさらありませんよ」

 

 

 

2019/04/09 12:33:52 No.582403442

使命から逃げてもいいのだと囁く絶好の機会であることも忘れて、私は彼に語りかけていた。
そうだ。その私は私であって私じゃない。他の私に憧れて今の自分を棄てるなんて、私の誇りが許さない---
欲するものは自分で守る。誰かの願いに流されて、自分の身体を炎に晒すなんてもう二度と御免だ。その為なら、大嫌いな花の矢だっていくらでも放ってやる。
「--ありがとう。でも、やっぱり俺も戦うよ。俺たちの未来は、俺たちみんなで取り戻さないと」
まだ涙の痕は残っているけれど、さっきのような絶望は感じられない。きっと彼はこれからも、この戦いを続けて行くのだろう。
ああ、でも一つだけ---
私はいつから、自分の運命にこれほど潔く立ち向かえるようになったのだろう---

 

 

 

2019/04/09 12:34:26 No.582403551

それからも戦いは続いた。彼は全ての異聞帯を攻略し、その度にそこにいた人々に想いを馳せていた。けれど、あのときのように悲嘆を溢すことは、それから一度もなかった。
そして戦いは終わり、彼はかつての日常に戻った。一つだけ違うのは、彼の傍らに皮肉屋の女神が一人ついていくようになったこと。彼にとっては懐かしい故郷でも、私にとっては見たことも聞いたこともないようなことでいっぱいだった。
いろいろなことがあった。やむを得ず一緒に暮らすようになって、一緒に御飯を食べるようになって、休日に一緒に出かけるようになって。
そして、あなたを、すきになって---

 

 

 

 2019/04/09 12:35:27 No.582403770

「ねえ、カーマ」
落ち着かない様子の彼が、私の名前を呼ぶ。
「どうしたんですか、さっきからもぞもぞもぞもぞ。芋虫の真似でもしてるんですかぁ?」
「最近になって考えるんだ。カーマはさ、本当に俺でよかったのかなって」
「どういう意味ですか?」
「あのとき、カーマは幸せになれた結末を捨てて、俺の未来についてきてくれた。だったら、俺はそれ以上に、カーマのことを幸せにしてあげなきゃいけない。
でも、俺にそんなことができるのかな。ここにはマシュもシオンも新所長も、サーヴァントのみんなもいない。あの人たちが居なかったら、俺はとっくに死んでた。でも、もう俺は一人で生きていかなきゃいけない。会社でも大して仕事ができるわけじゃないし、頭だって良くないのに。これからきっと、今までの戦いとは全然違う苦しいことがたくさん起こると思う。その全てから、俺は君を本当に守ってあげられるのかな---」
そう言う彼の姿は、人類最後のマスターでも、二度も人理を救った英雄でもなく、新しい生活に不安でいっぱいの、ただの普通の男の子だった。そんなあなただから、私は---
ああ、でも一つだけ、聞き捨てならないことがあった。

 

 

 

 2019/04/09 12:36:28 No.582403982

「マスターさん」
「えっ…?」
「目をつぶって、そこに座ってください。お仕置きです」
「え……?」
困惑しながらも、言われるがままに彼は私の前に座る。そして---
「愛もてかれるは恋無きなり--」
「ちょっ、カーマ…!?」
びくりと身を震わせた彼の胸に指を置く。そして、彼の耳元に唇を寄せて--
「バーン、なーんて」

 

 

 

2019/04/09 12:36:39 No.582404016

一気に気の抜けた彼を、私はそっと抱き寄せた。
「一人で生きていく、って言いましたか。とんだお馬鹿さんですね。もうあなたは、私から逃げられないんですよ?何があっても二人一緒だって、わかりきったことじゃないですか。
だから、もう怖がらないでください。ずっとずっと、あなたは私の虜なんですから。
ずっとずっと、私はあなたのものなんですから---」
彼から手を話すと、さっき彼の胸に押し当てた花がはらりと落ちる。
ブーゲンビリア。花屋の店先に並んでいた、鮮やかに咲いた花---
もう一度、彼と抱き合う。
「もう、明日まで待てない。カーマ--」
ああ、言ってください。あなたの愛しい声で、私に伝えてください---
「たとえ死がふたりを分かつとも、君を愛することを誓います--」
きっと明日は、多くの人の祝福に満ちた日になるだろうけれど--
はじめてのキスは、二人だけの秘密にしよう--

 

 

 

2019/04/09 12:41:10 No.582404941

行き着くところまで行ってる…

 

 

 

 2019/04/09 12:42:56 No.582405259

いいでシュね

 

 

 

2019/04/09 12:43:27 No.582405364

このホムセン店員毎回いちゃついてんな

 

 

 

 2019/04/09 12:46:14 No.582405927

>欲するものは自分で守る。誰かの願いに流されて、自分の身体を炎に晒すなんてもう二度と御免だ。その為なら、大嫌いな花の矢だっていくらでも放ってやる。
そうよね
わかるわ

 

 

 

2019/04/09 12:46:47 No.582406023

流石に愛の神か
敵対さえしなけりゃあっという間に勝者になってる

 

 

 

2019/04/09 12:54:08 No.582407379

スレ画が強すぎた
駄女神方面の二次絵だと上姉様コースだった

 

 

 

 2019/04/09 12:57:51 No.582408043

パールさん「夫と一緒に行っていいですか?」

 

 

 

2019/04/09 13:14:05 No.582410352

カーマちゃんはイヤイヤ愛するばっかりで愛され耐性もマジ恋耐性も低すぎる…

 

元スレ:http://img.2chan.net/b/res/582402630.htm

 
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