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2019/04/08 01:12:07 No.582117027

 

「恋人が浮気した」
そんな話、私は飽きるほど聞いてきた。そしてその度に思うのだ。彼らはなんて愚かなんだろうと。
与えられた快楽は慣れていくものだ。それは人も神も同じこと。慣れてしまえば、その者は当然新しい刺激を求め始める。そんな当然のこともわからずに、私に何とかしてほしいと頼む女たちも、そんな女の気持ちを想像できない男たちも、みんな平等に度しがたい愚か者だ。
そう、だから私は動じない。
あの底抜けに人のいいマスターが、私以外の女と親しくしているとしても。

 

 

 

 2019/04/08 01:12:29 No.582117111

 

始まりはただの噂だった。口さがない私の同僚たちが昼休みに興じる、心底くだらない恋愛の話。普段なら昼御飯が不味くなると聞き流しているところだったが、その日ばかりは勝手が違った。
「ねえ、カーマさんと一緒に住んでる藤丸さんって…」
「そうそう、この間も長い紫色の髪の人と一緒に…」
最近、彼の帰りが遅いとは思っていた。だがそんなこともあるだろうと思って、深くは問い質さなかった。それが、まさかこんなことに－－－
「詳しく聞かせていただけますかぁ？」
「えっ、は、はい…」
気まずそうにする同僚を尻目に、私はその話を聞き始めた。思えば、この時から私はおかしかったのだろう。今までの私なら、心底見下しながら「それも愛してあげます」と宣って、話を打ち切っていたはずなのだから－－－

 

 

 

2019/04/08 01:13:04 No.582117266

 

話を詳しく聞くたびに、私の心に凝りのようなものが溜まってゆくのがわかる。休日のデパート、相手の女の姿、心底楽しそうだったという彼の顔。想像する度に虫酸が走る。
私の考えていることが正しいなら、彼はきっとあの女と－－－－
そして、私の心に居着いて離れない不快感の正体も、私は同時に理解した。
これは、憎しみだ。私だけが壊していいオモチャに、よりによってあの女がちょっかいをかけている。それがどうしようもなく許せないだけだ。
だから、絶対に違う。
この私が普通の女のように、好きな人を取られて嫉妬するなど、あり得るはずがない－－－

 

 

 

2019/04/08 01:13:38 No.582117422

 

見てしまった。
彼があの女に、私が憎んで止まないパールヴァティーに、笑顔で贈り物をしているところを。
その光景が目に入った瞬間、私は考える間も、声を発する間もなく、その場から逃げ出していた。
彼があの女に笑いかけた時に、嘲笑ってやろうと思ったのに。あの女にあらんかぎりの悪態をついてやろうと思っていたのに。
彼とあの女が楽しそうに微笑んでいるのを見た瞬間、私が今まで憎しみと呼んでいたものが、胸を引き裂くような痛みに変わった。
痛い。どうしようもなく胸が痛い。シヴァの焔に焼かれた時の、あの焼けつくような不快感とも違う、鈍く、重い、込み上げてくるような痛み。それに駆られて、私は走っていた。息が切れるのも、足が重くなるのも構わずに。
一刻も早くあの場所から離れたかった。あの女に笑いかける彼の姿を見たくなかった。彼がもう私を見ていないことを、受け入れたくなかった－－－

 

 

 

 2019/04/08 01:14:07 No.582117546

 

「ごめん、カーマ。俺、もう君とは一緒にいられない」
いつもと変わらない優しい声色で、彼は私にこう告げた。
なぜ、どうしてと問いたいのに声が出ない。彼のもとに近づきたいのに、足が動かない。
「俺、パールヴァティーさんと付き合うことにしたよ。あの人は俺のことをいつも優しく励ましてくれるんだ。君と違ってね－－－」
そう言うと、彼の後ろからあの女が現れる。そうして、あの憎たらしいほど眩しい笑顔を浮かべて－－－
「恋見てせざるは愛無きなり」
熱い、痛い、苦しい。
でも、そんなことはどうでもいい。
彼が行ってしまう。もう戻ってこなくなってしまう。私のそばから、消えてなくなってしまう－－－
ああ、お願い、やめて。
もう私には、あの人しかいないの。
だから、彼を、とらないで－－－

 

 

 

 2019/04/08 01:14:59 No.582117764

 

目が覚めると、もう日が傾いていた。
街の景色が一望できる高台の公園のベンチに、私は座り込んでいた。
どこか見覚えのある景色。そうだ、ここは彼と初めて一緒に出かけた時に来た場所だったっけ。
無意識のうちに、彼との思い出にすがっていたんだ。情けなくて笑えてくる。笑えてくる、はずなのに－－－
涙が止まらない。胸がどうしようもなく苦しい。
会いたい。彼に、会いたい－－－
「マスター、さん……マスター、さん…！！」
「うん。ここにいるよ、カーマ」
はっと顔を上げると、そこには見慣れた笑顔があった。
ためらいを感じる間もなく、彼の背に腕を回していた。
「悪いところがあったなら直します。もう生意気も言いません。だから、だから－－－
もうどこにも行かないでください。私だけのそばにいてください。だって、私は、あなたのことが－－－
世界で、一番、好きなんです……！！」
まるで時が止まってしまったような、一瞬の静寂。そして－－－
「ごめん、カーマ」

 

 

2019/04/08 01:15:58 No.582117971

 

ああ、やっぱりだ。
愛に倦んだ愛の神に、愛が与えられるわけがなかったんだ。
そんなことを思ったのも束の間、彼が強く私を抱きしめていた。
「今まで不安にさせて本当にごめんね。俺も、君とずっと一緒にいたい」
えっ、と声が漏れる。
「だって、あなたはパールヴァティーに…」
「俺もこんなことするのは初めてだからさ。相談に乗ってもらってたんだ」
そう言うと、彼はさっきパールヴァティーに手渡していた小箱を、私の掌に乗せた。
「これって…！」
その中には、斜陽を浴びて煌めく一対の指輪が入っていた。
「給料３ヶ月分、ってやつかな…。こんなことしたことがなかったから、すごく不安だけど…受け取ってくれるかな」

 

 

 

 2019/04/08 01:16:12 No.582118018

 

照れた彼の顔が、夕焼けに照らされて更に赤く染まっていた。
ああ、そんなこと。そんなの、始めから決まっている。
指輪を嵌めて、真っ赤な彼に抱きついた。
「当たり前じゃないですか……！！本当に、お馬鹿さんですね……！！」
「ごめん。きっと一生治らないと思うけど、許してくれるかな」
「だめです、許しません。これからもずっと、私を幸せにしてくれないと－－－
許してなんか、あげません」
とうに日は沈んで、大きな満月が上っていた。
ああ、本当に－－－
本当に、月がきれい－－－

 

 

 

 2019/04/08 01:16:50 No.582118163

 

わっふるわっふる

 

 

 

 2019/04/08 01:17:10 No.582118242

 

よかった⋯

 

 

 

 2019/04/08 01:23:08 No.582119478

>「恋見てせざるは愛無きなり」
トリシューラ・シャクティ！

 

 

 

 2019/04/08 01:23:23 No.582119526

このへなちょこ花甘店員の何が「」を引き付けるの…

 

 

 

 2019/04/08 01:24:52 No.582119799

 

>このへなちょこ花甘店員の何が「」を引き付けるの…
個人差はあれ好きになる要素の塊だし

 

 

 

2019/04/08 01:23:44 No.582119585

1日で同棲からプロポーズまで来てる…

 

 


 2019/04/08 01:24:23 No.582119707

カーマのパート姿の何がそのこまで人を狂わせるのか…




2019/04/08 01:25:42 No.582119934

このパート愛され過ぎでは…？

 

 

 

2019/04/08 01:26:16 No.582120051

この接客業の子がしちゃいけない顔いいよね

 

 

 

2019/04/08 01:27:54 No.582120331

DCMホールディングスのカーマホームセンターは競合他社ですのであまり好きではありません

 

 

 

 2019/04/08 01:29:35 No.582120609

>DCMホールディングスのカーマホームセンターは競合他社ですのであまり好きではありません
ですがそれも愛しましょう

 

 

 

 2019/04/08 01:30:08 No.582120695

なにがそんなに人々を狂わせたんだ…

 

 

 

 2019/04/08 01:32:13 No.582121079

なにこのホームセンターのダイレクトマーケティング…

 

 

 

 2019/04/08 01:38:05 No.582122193

イベントもう少しで終わるって時にダイマしやがって……
ありがとう！

 

 

 

2019/04/08 01:40:55 No.582122809

旦那様が望むならJSから熟女まで、2人きりからハーレムまで
子沢山がお望みならサッカーチームと言わず星の数ほど
そんなお嫁さん

 

 

 

2019/04/08 01:43:24 No.582123257

 

サンスクリット文字のカーマを語源としてるからダイレクトにあやかってる
そしてそこに繋がる愛知県への概念チェーンコンボ

 

 

 

 2019/04/08 01:50:30 No.582124577

カルデアでのお給料はどうしたんだマスター
将来用の資金に貯めてる？

 

 

 

 2019/04/08 02:02:59 No.582126646

“Cupid is a knavish lad, thus to make poor females mad.(思えばキューピッドはろくでなしな奴だ、哀れにも女を狂わせる存在なのだから)”
とは言いますが、今回は愛の神が哀れな娘そのものだったとは、いやはや実に面白い。ジュリエットも天国でほくそ笑んでいることでしょう
そして私は通りすがりの作家、前途多難なる若者二人にいらぬ老婆心からアドバイスをば
"Therefore love moderately: long love doth so(ほどほどに愛しなさい、長続きする恋とはそういうものだ)"とね。
度を過ぎた華やかな生活に憧れることもなく、爛れた愛に溺れることもなく。ポヴァリー婦人のごとく身に余る憧憬は身を滅ぼすものですよ
━━━まぁ、悲恋マニアの私としましては、退屈な日常に倦み疲れた二人が要らぬ背徳の愛に溺れ、嫉妬と愛憎渦巻く月日の末に愛を確かめる為に心中を図りグランドフィナーレ、などという展開もまたいいものですな。
それでは、若く瑞々しい二人の道程に幸あらんことを！

 

 

 

2019/04/08 02:05:13 No.582126939

 

「」ェイクスピア！！！111！(ﾊﾞｼｨ

 

 

 

2019/04/08 02:07:39 No.582127212

 

おシェイの一人称我輩だった…ごめんね

 

 

 

2019/04/08 02:08:14 No.582127286

相変わらず文豪エミュが上手すぎる

 

 

 

2019/04/08 02:13:08 No.582127818

 

中部地方はインドだった？

 

 

 

2019/04/08 02:16:19 No.582128141

4章は愛知に行くんだな…

 

 

 

 2019/04/08 02:16:57 No.582128206

（私も鼻が高いですよ…）

 

元スレ：http://img.2chan.net/b/res/582117027.htm

 

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